Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


言葉によって非在と存在が。皆川博子「水葬楽」


 言葉を、名前を覚えた時の喜び。この頃だと、たとえば鳥だ。知らない鳥の声を聞いたり、姿を見かける。野鳥図鑑で調べる。次からは名前で彼らを呼べる。名前を知ったその時から、彼らは私に存在するものになったのだ。それまではわたしにとって存在しないものだった、彼らは存在しているにも関わらず…。雀のような大きさだが、模様が違うコゲラ。キツツキの仲間だという。多分、いつも木をつついているのだ。飛びながら落ちるハクセキレイ、いつも一羽でいるコサギ…。
 こうしたことをよく考えていたのだが、皆川博子『猫舌男爵』という短編集所載の「水葬楽」。では、まさにその逆だった。言葉、名前が失われることで、存在しているにも関わらず、人々にとって非在となってしまう。
 「言葉の多くが殺された、と侏儒は語った。婉曲な言い回しがもちいられるようになり、その実体さえ存在しなかったことになり、目の前にあっても、ないように扱われる。在ってはならないものは、ないものとして扱われる。」
 そうしたことを主人公の少女に語ってくれた、侏儒本人も。
 主人公の女の子は、シャム双生児だった兄と、文字通り引きはがされ、おそらく存在しないものとして、広い屋敷の中で生き続ける。兄のほうは、跡継ぎとして、外の世界で名前をもつものとして、存在しつづけるだろう。だが、少女はひとり、書物を読むことで言葉を覚え始めた(侏儒は彼女の前から知らないうちにいなくなっていた)。そのことで存在たちをつくりあげてゆくのだ…。小説の最初の部分が、彼女によって書かれはじめる。この小説自体が、彼女の創作だった、という終わり方が、言葉の円環のようで面白かった。あるいは存在の連鎖、増殖。

アバター
2012/05/15 02:09
コメントありがとうございます!
うちのベランダ、三階なのですが、どこからかタンポポやスミレ、種がこぼれたらしく、
植えたおぼえがないのに、咲いていたり。
たくましくがんばってくれているのだなあと。
アバター
2012/05/14 22:18
名もなき路傍の花も
力強く存在を主張してる(・ω・`)
名は他者によって与えられるもの…
花は己が名をしらず
咲き誇る…
野生の逞しさかな…(◕ω◕)かな?



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.