Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


青いバケツの花の謎


 私が住んでいるマンションの近く、もしかするとお寺かもしれない。あるいは大きな戸建の家、庭が広く、立派な塀で囲まれたところ…。実はよく覚えていない。たいていは朝だった、出勤前、自転車でとおると、ごくたまに、門の脇に、水をはった青いバケツが置かれているのを目にした。「ご自由にお持ち下さい」と紙が添えられている。季節は春から秋の間で、そこには、庭に咲いていたのであろう、折々の切り花が置かれているのだった。朝、駅に向かう途中なので、残念ながら、持って行くことができない。ただやさしい気持ちだけもらって通りすぎる。帰りには青いバケツ、花はとうにないので、家がいまいちわからないという…。いや、いつかの休日、見かけたことがあった。買い物だけすませて、後で花を…ともくろんだことがあったが、三十分位の間に、もうそれがなくなっていることもあった。やはり寺だったか、戸建の家だったのか、よくわからない。多分、わからないままにしておきたいのだろう。忽然と、季節の花が差し出される。みかけるたびにやさしいもの、あるいは季節の一端だけもらって過ぎる。そのままにしておきたいのかもしれない。
 と、こんなことを書いているのは、今日もまた、夕方買い物に出かけた時に、青いバケツの花たちに出会ったからだ。矢車草と、あとはわからない。ことし初めてだ。もう、そんな季節になったのだ。そのときのことを、今思うと、青いバケツと花たちの差し出すぬくもりにばかり目がいってしまって、どうも、まわりのことをほとんどみていないようだった。また、例のように、買い物が終わった後に…と思う。今もらってしまったら、花がしおれてしまいそうだ、せっかくのやさしさが…と。それでまた、案の定、帰りに探す…というよりも、同じ道を通るのだけれど、花はない。またどこだったのかわからない。季節のやさしい青い花、の記憶だけが残るのだった。




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