悲しき休息
- カテゴリ:自作小説
- 2012/05/06 19:33:16
悲しき休息
なんて静かな日だろう。
野良に働く人影もなく、馬車にも、売り子にも出会わない。
まるで世界の時間が止まってしまったかのようだ。
空を見上げるとうっすらと青空が見えた。
特に何かをしたいわけでは無い。ただ外へ出て散歩したかった…そんな日があってもいいんじゃないかと、ボクは思う。
ヨシュアは南西の島にある地下神殿へ逃げたと、推測している。
だが…確証は無い。それを確かめるために、「ガブリエル」へ寄ったのだ。
千里眼という特異な能力を持たれているアマテラス様ならヨシュアが今、どこにいるか知っておられるかもしれない。そんな理由からここに寄りたいと、ギルバードに話すと「ぜひそうしよう」と言ってくれた。スコットも「ついでにバカンスと行こうぜ」と、賛成してくれた。
ニナは戦いの後、意識を失い、今は南東にある教会のベッドの上で眠っている。
今日は祈りを捧げる日でもあるらしく村人全員、教会へ集まっているのだ。
突如、目の前に白い鳥が舞い降りた。
白く輝く鳥…黄色の瞳でこちらを見つめている。
「ついてこい」と、言っているのか、ゆっくりと羽ばたき、立ち去ろうとする。
ボクは他にやることも無いので、その後をついて行った。
橋を渡り、石段を駆け上がり、小鳥たちの声に耳を傾けながらも目は白く輝く鳥を追いかけて行くと、何度も歩いたはずのガブリエルの町ではあったが…知らない場所へと誘われていた。
滝の音が耳に入る。
滝の前にはヨシュアがいた。
まだボクには気づいていない。
ヨシュアは空を見上げて、後ろを振り向き、ボクを見た。
目が合った。
「ルゥ…僕たちは戦うことになる。その結果、僕は死ぬかもしれない。黒い仮面を壊しても…僕はもう助からないかもしれない。それぐらい僕はもう…この黒い仮面に「命」をあげすぎたのかもしれない。フィオルさんだったかな…彼も同じことを言ってなかったかい?」
「言ってた…白い聖剣を体から外すことは死を意味すると。ヨシュア!じゃあ、ボクはどうすればいい!」
「ルゥ…落ち着いてよく聞くんだ。君は戦乙女である「ヴァルキュリアス」に選ばれたんだ。ヴァルキュリアスの王家だけが知るあの言霊は「命」を捧げる秘術…放っておくと彼女死んじゃうよ。ルゥ…ヴァルキュリアスの言霊を貰ったのなら、君は何を捧げる?『命』を捧げることができるかい?」
「ボクの命を捧げればニナは助かるのか?でも、それだと誰がヨシュアを助ければいいんだ!」
「ルゥ……僕の友よ。僕が人間の意識があるうちに伝えるよ。こうやって君と話せるのはこれで最後だ。ルゥ…僕はもう助からない。黒い仮面に「命」を吸われてしまった。だから、君の手で死なせてほしい。いや、それも贅沢かな。ルゥ……僕の友よ。死は別れじゃない。死を僕に与えてほしい。それが僕を助けるということさ。ルゥ……僕の友よ。白く輝く鳥をニナの元へ」
ヨシュアは笑っていた。黒い仮面を相変わらず被ってはいたから、ほんとに笑っていたのかわからない。でも、ボクはそう感じた。笑っていたと。
見慣れた空間転移の魔方陣が、ヨシュアの後ろに現れる。
「ルゥ…地下神殿でプレゼントを待っているよ」
「ヨシュアぁあああああああああああああああーーーーーーーーーー」
声の限り叫んだ。
大好きです