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■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味(48)

■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味|下 生の増進と美|三 (5)

地も、草も、人も、生活といふものに疲れ果てゝ、やがて彼方の寺から響き來る夜の鐘の音をたよりに、一夜をせめて安らかに休息せんとしてゐる。人間は何故に斯うしてまで生きて行かねばならぬか。分からぬものは運命の意味である。所謂近代的内觀、近代的哀愁の意は遺憾なく此の圖に見はれてゐる。我等が之れに對する時は、圖中に含まれてゐるだけの眞理は勿論、之れに聯續するものをも、何所までも辿り辿つて、其の通りを我が心に實現せんとする。そこに我が生は限りなく増進せられて、増進したる生は更に眼前の畫圖中に流入し、我れと圖と全く別なきに至つて、圖は生きたものとなり美なるものとなる。
吾人の結論は以上の如くならんとするのであるが、其の生の増進といふことから快樂説に入り、生の流入といふことから生化説に入らねば論は完成せぬ。題を改めて更に稿をつぐの機があらう。(明治四十年十月)



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*註1:地も、草も、人も、
原本では前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:響き
「響」の旧字体、もしくは正字体だが原本画像不鮮明で確定できず。
旧字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_hibiku.jpg
正字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_seiji.jpg

*註3:鐘の音
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註4:分からぬ
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註5:運命
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註5:所謂・何所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註6:近代的
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:内觀
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註8:遺憾
「遺」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:辿り辿つて
「辿」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:其の通り
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註11:増進
「増」の旧字体。「土」+「曾」。
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註12:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註12:眼前
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註13:全く
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg

*註14:快樂説・生化説
「説」の旧字体。「言」+「兌」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

(2014/09/04/初校)




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