【前回までのあらすじ】
森で迷い、イタリアンカフェ 『バンピーノ』 に たどり着いた、飯島青年（２２歳）。それは、偶然のことと
思われたが必然だった―― 森へ踏み入れた者を迷わせ カフェへと誘い込む、店主（バンパイア）の
策略だったのだ！―― そうとは知らず、飯島青年は、まだ夕飯を食べていなかったことを思い出す。


あ、お客様？ お腹は、すいてございませんか？ すいてますでしょう？ 当店でお食事していかれては
いかがでしょう？ 格安のコースメニューをご提供しておりますけれど。 え！３０万円？そんなに高くは
ありませんよ？ 当店は、ぼったくりカフェでは、ございませんからね！

では、一例をご紹介します。当店おすすめメニューの 『ローマの休日コース』 ですと―― もちろん、
あの映画をモチーフにしています―― うとうとマリネに、トレビスープ、メインディッシュは、真実の口
ステーキでございまして、他に 隠し採りサラダと、さらにデザートは、王女の愛したアイスクリームが
付きまして、料金は、な、なんと！　１２５０円ポッキリでございますよ！

あ、あれ？ 意外に無反応ですねぇ…。　あ、メニューをご覧になりますか？ では、こちらをどうぞ。
若いお客様に 『ローマの休日コース』 の魅力は、いまいち伝わりませんでしたかねぇ？ いえ、私に
かまわず、お好きなお料理をお選びいただいてかまいませんよ？ はい。お決まりになりましたか？

では、７８０円のイタリアンハンバーグセットをお１つ。 こちら、ライスとパンが選べますが？ パンで。
デザートは、ティラミスかパンナコッタのどちらかお選びいただけますが？　あの？どちらにしようか
悩むほどの量はございませんが？ はい。 苦いか甘いかの違いでございます。 では、甘い方で？
それでは、食後にパンナコッタをお持ちいたします。

ご注文は、以上でよろしいでしょうか？ はい。では、出来上がるまで多少お時間がかかりますので、
その間、ご入浴をしてお待ちいただきます。 当店は、大浴場も完備しておりまして―― 残念ながら、
混浴ではございませんが―― そちらで、浮世のアカを洗い流していただければと存じます。首筋は、
特に念入りにお洗いくださいませ！

さらに、室内ではございますが、打たせ湯も完備しておりますので、肩のこり等をおほぐしくださり…
え？若いから、肩はこらない？ まぁ、そうおっしゃらずに、滝行のまねごとだけでも、やってみてくだ
さいませ。 タオルとせっけんと歯ブラシは、脱衣所に置いてございますので、ぜひ ご利用ください。
では、給仕フランが、大浴場までご案内いたします。 ごゆっくり、お風呂をお楽しみくださいませ～。



お帰りなさいませ、お客さま。 どうでございましたか？お湯加減の方は？ 最高でございましたか！
それもそのはず、当店のスタッフが―― と言っても、給仕フランのことですが―― 常に、温度管理
には気を配っておりますので！

ちょうど、お食事の用意も出来ましたので、お席の方へどうぞ。　では、お客様！ サラダとスープ、
パンと、トマトソースたっぷりの イタリアンハンバーグでございますよ！ え？何でございますか？
スープにイモリが浮いていたり、サラダにクモがひそんでいたり、ハンバーグからコウモリの足が
飛び出ていたり…、そんな料理を想像していたのでございますか？ まさか、まさか！ で、ござい
ますよ！ 当店では、人間のお客様にそんなＢ級グルメは、お出ししておりませんので！

どうぞ、安心してスープを吸ってみてくださいませ。 どうです？おいしいでございましょう？ それも
そのはず、当店の食材は、産地直送で取り寄せておりますので！ サラダもどうです？おいしいで
ございましょう？ 野菜は、近所の農家の手作りでございます。 朝採りとはいわず、もう、夜盗りで
ございますから、鮮度が違いますでしょう？

お客様、どうぞ味わってお食べくださいませ。 これが、最後の晩餐（ばんさん）となりますので…
え？ 最後と聞こえましたか？ さ、最後ではございませんよ？ 最高です。これが、最高の晩餐と
なることでしょう！ と、申し上げたのですよ！

ハンバーグは、どうでございます？ おいしいでございましょう？
（先程から、何を聞いても 「おいしい！」以外のコメントがございませんねぇ…。 そ、それにしても、
とても幸せそうに食事するお客様で…。　な、なんだか、もう我慢できなくなってきましたよ！）

わたくしも、ちょいと お味見を…。　お客様！首筋を 失礼！


　　がぷッ！


たいへん おいしゅうございました！