「まあ、こんなにボロボロ。可哀想に。」

「まあ、闘いの日々だったからな。」

白魔術師まりんの部屋に、ルッカとながれぼしが、
桜の枝と、その持ち主、蘭ランらんを連れて
帰ってきたのは、出かけてから4時間後のことだった。

食べるだけ食べ、思いっきり熟睡した、花婿ぐま、
涙ぐむ蘭ランらんの視線に、満足そうに胸を張る。

「そういえば、名前訊いてなかったなあ。」

ルッカが呟くと、くまは、振り返った。

「俺の名は、虎吉。制作者はタイガースのファンだからとか
抜かしていたが、実は、タイガーマスクより強いから
この名前をつけたんだと、俺は知ってるんだ。」

部屋の主、白魔法使いのまりん、カエルのルッカ、
黒猫のガンちゃん、魔術師あんぱん５・・・。
「あ～ほ～かっ！」
釣り堀にいたメンバーは全員、ツッコミ入れたいのを堪えたのは
ひとえにみんながオトナだったからだろう。

「虎吉くん。一人で頑張って偉かったわね。」

事情を知らない蘭ランらんだけが、微笑みながら素直に頷いている。

「そうそう、虎吉君にご紹介したいのだけど・・・。」

蘭ランらんが部屋の外へ声をかけると、ドアが開き、
おずおずと2匹のくまぬいが入ってきた。

「我が家のウェディングベア、らんり、らんらですの。」

2匹のくまぬいは、まりんが勧めたハートの座布団にちょこんと
座ると、ゆっくりとお辞儀をした。

「同じクマでも、こんなに違うんだなあ・・・。」

暴れ、わめき、がつがつ食べてグウグウ寝る・・・。
虎吉とのあまりの違いに、感動する一同である。

「あら、じゃあ、折角だから、彼らにやってもらおうかしら♪」

魔術師あんぱん５が、大きな茶釜をリビングの中央に運び入れながら
意気揚々と何かの支度をしている。

「ところで魔術師さんよ、苦労して手に入れた桜の枝、
一体、どーすんの！？」

あんぱん５の手伝いをしていた魔術師見習い、ながれぼしが
返事を返す。

「これから、先生が、作るんです～ゥ♪」

「だから、何を！？」

「それは、出来てみなきゃわかりまセン～♪」

茶釜、茶色のローテーブルを設置し終えたあんぱん５は、
おもむろに、テーブルの上に、集めた材料を取り出した。

「桜の枝に、トースト、柏餅・・・。そしてこの魔法の粉・・・っと♪」

茶釜で湯をわかし、テキパキと材料をこまかく砕き始める。

「あ、わすれてた！ながれぼしちゃん、段ボール持ってきて！」

ニコットタウンに越してくる時、誰もが使った段ボールを持ってこさせると、
あんぱん５は、砕いた材料を静かに段ボールへと流し込んだ。

「ああああ、貴重なアイテムを・・・限定モノだぞお！？」

「し・・・！静かに！！！これからが本番なんだから！」

るんるんと仕事をしていた表情から一転、真顔になると、
あんぱん５は、魔法の粉を段ボールのなかに振りかけた。

「これでよし！」

段ボールをぱたん！と閉じると、今度は茶釜から、湯飲みに白湯を
淹れ・・・。

「ニコっと・・・・ちゅっっっっ♪」

段ボール全体に白湯をまんべんなく振りかけながら、
投げキッスを箱に向かって3回・・・。

「ニコッとニコッと、しゃらんら～っっっ♪♪♪」

あんぱん５が、腰に差していたステッキを取り出して
一振り・・・段ボールが、淡い紫色の光を放ちはじめ、
ゆったりと空中に浮かび上がった。

そして・・・。

ぽんっっっっっっ・・・派手な音と共に段ボールがはじけた
次の瞬間・・・ローテーブルの上に現れたのは・・・！？

「これって・・・ぱん・・・・？？？」

どう見ても、こんがり香ばしい焼きたてほかほかの、
ロールパンである。

「違うわよ！よく見てちょうだい！」

あんぱん５は、得意そうにパンを指さした。

「これはね、あ・ん・ぱ・ん！！！」

確かに・・・材料に柏餅が入ってはいたから、
中味のあんこが、入っていると言えば言えるんだけど・・・。

「これはね、ただのあんぱんじゃ、ないのよ。
ほら、あんぱんの上に、ちゃんと桜の花びらも乗ってるでしょ♪」

「それって・・・キム○ヤの登録商標じゃあ・・・。」

桜の花びらが乗っかったあんぱん・・・。
これを作って、どうするんだ・・・。

一同のそんな迷いをようやく読み取ったのか、あんぱん５は、
ニッコリと笑った。

「さあ、準備はできたわ！みんな、よく見ててね♪」

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うははは！