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お佳世の7つのお祝い。(忍者物語)その15


お佳世は与一が引き取った先妻の子供です。
与一の大工の棟梁の娘と嫁ぎ先の米屋の夫との間にできた子です。

お佳世が7つに成る頃に与一は新しい長屋に引っ越します。

小さいが部屋が3つあってそれぞれの部屋に押入れが在ります。
小さな庭も裏にあり、子供が育つには最高の環境でした。

与一とお涼の子供が4歳正太。
此れが手が付けられないやんちゃ坊主で此の頃に成ると
お佳世はそんな正太と遊んでいるうちにすっかり元気になり。

正太に負けないで正太の面倒を見ている内に本来の明るさも利発さも
そして食欲も取り戻して居ました。

晴れ着を買って貰って、7つのお祝いに神社に家族で行きました。
「此れが、あの娘かい?」と、神社に行く途中に事情を知って居る
昔の前の長屋の近所の人が其の変貌にびっくりしました。
神社に行く途中での通り道だったのです。

この3つ部屋が在る長屋時代が一番お涼家族に取って幸せな時代でした。

正太はやんちゃが少しでも改善するならと、
お寺の一室を借りて、元お侍さんが読み書き、行儀、そろばんを教えて
入ると言うので、7歳で其処に通わせました。

お佳世にも、同じ様に近所の着物の仕立て屋をしている人の
所に11歳で布を持って見習いの見習いに通わせました。

其処まで金銭的な余裕が在ったのです。

やがてお佳世は浴衣程度は縫えるようになり、
縫い子のお弟子になりました。
初めての仕事は父親の仕事着でした。
14歳の時です。

正太も12歳の時は同じ場所で剣道も習っていました。

そして13歳で父親について、父の大工の見習いになりました。
与一も体格が良い方ですが、正太も体格が良く、
親子二人が仕事場に行くのをお涼と佳世が弁当を持たせて送り出しました。

絵に描いたような幸せな家族でした。

やがて、お佳世が17才の時にお佳世の叔父にあたる
棟梁の一人息子が仕事先に屋根から落ちてあっけなく死んでしまいます。

1年間はふさぎ込みながらも、何とか仕事をしてましたが、
ある日、突然お佳世を引き取りたいと言って来ました。

お佳世に本当の血が繋がっているのが自分一人だと言うのが言い分でした。

ゆくゆくはお佳世に婿を取らせて、あの大きな大工の店を継がせたいと言うのが
言い分でした。

与一の親子でやっている小さな修繕やと家一軒を立てる大工の家とでは
格が違います。

お佳世の将来の幸せを考えると与一とお涼は話し合って
嫌がるお佳世を説得して、お佳世の祖父の家にお佳世を行かせました。

お佳世の気持ちはお涼の胸にしまい込みました。

此の3つの部屋とそれぞれに押入れが在る家は幼い二人がこっそりと
隠れて遊ぶには最高の場所でした。

どこに居てもお涼の目はごまかせませんでしたので、
何をこっそりとしているのかはお涼は解って黙って居ました。

正太のおむつを変えたり、大きな赤ん坊の正太を背負って子守したのもお佳世です。
あちこちの家の手伝いをして、家賃の足しに働き続けたお涼を助けて
むずかる正太を寝かしつけました。

其の為にはお佳世は良く食べて力をつけました。
そうしないと大きな赤ん坊の正太の面倒は見れないぞと言われたのです。

佳世にとっては正太の面倒を見る事で家族に成ろうと子供心に思ったのかも
知れません。

何時も二人は一緒に居ました。
新しい長屋に引っ越して、誰も佳世が正太の本当の姉で無いとは思いませんでした。
そして与一とお涼も本当の親で無いとは思いませんでした。

お涼はあの時、佳世をどう扱って良いのか知って居ました。

最初に静かに抱きしめました。優しく長時間黙って抱いてました。
其れから、洗濯たらいにお湯を張ってお涼も裸になって佳世の体を
洗いました。
静かに静かに優しくお涼は佳世の体に暖かいお湯を手でかけて
揚げました。

ゆっくりとゆっくりと包んで揚げる様にそして優しく胸の中で包み込みました。
佳世の目から自然と涙が出るまで。

哀しい時に泣ける場所は此処だと教えたのです。

正太をはらんだ時はお腹を触らせました。
お前の弟が出来ると教えました。
与一は仕事で忙しい。二人で頑張って育てようと約束しました。
お前も家族の一員だから、みんなで家族だから、一緒に育てるのだよと
言いました。

正太の面倒を見る事は佳世に取って家族の証だったのかも知れません。

其れが先に目覚めた佳世は正太に恋心を持ったのです。
近所で一番強い正太でした。
佳世の危機にはいつも駆けつけて救ってくれました。
犬が吠えても、近所の悪がきが髪を引っ張っても
どぶに落ちても、肥溜めに填っても、正太はもろともせず
駆けつけて助けてくれました。

佳世が12歳、正太が8歳の押入れのたたんだ布団の奥の
小さな結婚の誓いでした。

正太はすっかり其れを忘れているかの様に飄々と
祖父の家に引き取られて行く佳世を見送りました。




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