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晴明伝説・民間信仰・音楽・漫画アニメ


「祀り」壱

寛弘二年(一〇〇五)九月二十六日 安倍晴明薨去 八十五歳
五条松原の法城寺に埋葬

寛弘四年(一〇〇七) 一条帝の御代

・内裏 蔵人所
 校書殿の西庇にある蔵人所にて初老の男が一人、蝋燭を灯した薄暗い部屋の中で式占を立てていた。六十八歳になる彼の名は賀茂光栄。賀茂保憲の息子にあたる。陰陽師としての最高位に登り詰めた蔵人所陰陽師であった。
 深緋(あけ)色に輪無唐草紋様の袍(ほう)を着て、八藤丸紋様の指貫をはいた布袴(ほうこ)姿の光栄は、天を表わすという円盤を止めた。
(東の方に不穏な卦が出ておる。)
「これ、誰か居らぬか」
「はっ、経頼がここに」
 今宵の当直であった源経頼が隣の部屋より、慌てて返事を返した。何せ、相手は宮中の御意見番、光栄。気難しく、その奇行癖は若い頃から知られ、小言の多い御仁である。機嫌を損ねないように若い経頼の声は上ずっていた。
「済まぬが、急ぎ、陰陽頭守道の所へ行って、東に凶兆があるので、よく占って密奏するように伝えておくれ。
これしきのこと、式神に頼めば済むことだが、強力な結界の張られた内裏では式を呼ぶのも一苦労。
ま、こんな所に呼び出せる式はちと荒神でな、お主らが獲って喰われぬやもしれんからのう。命拾いしたな、経頼よ」
 今年から蔵人所に勤め始めた経頼は、真に迫った老陰陽師の言葉に震え上がり、「直ちに」と答え、身支度を始めた。
「それから、安倍家の連中の動きも注意しろと伝えろ。くれぐれも安倍の者に聞かれぬようにな」

・大内裏 中務省陰陽寮
 陰陽道宗家となった賀茂家にとって四代目となる陰陽頭、賀茂守道は陰陽博士、安倍吉平を召していた。吉平は安倍晴明の息子である。
「先程、蔵人所の光栄殿より使いが参り、東に不穏な動きがあると伝えてきました。どう思います、吉平殿」
 晴明と覇権を争い、その力を認めていたがゆえ、安倍家に対して心を許さない光栄と違い、三十九歳の守道は先輩であった吉平を慕い、寮内の安倍家の者を信頼していた。
「占では場所は都の内と出ております。また、因子は西からの風である、と」
 五十三歳を迎えた吉平は落ち着いて答えた。経験、実力では守道を越え、陰陽頭になる程の器であったが、主家の賀茂家に対して、安倍家はまだまだ格下の下級役人であった。密奏で内裏に行くことの多い守道が薄緋色の袍を着し、平絹の表袴をはいた束帯姿であるのに対し、吉平の袍が薄緑色であることが、位の違いを如実に伝えていた。
「うむ。ならば、陰陽師らに場所特定の占を立てさせ、陰陽生らを見廻りに行かせるように。それから、天文方に星の観測で異変がないか、注意を促して下さい」
 はっ、と返事をして、吉平は陰陽頭の部屋から退出した。
 吉平の顔は曇っていた。自分自身が何度占っても、はっきりとした占が出なかったからである。もしや、自分に関わる事件では、と不安に思いはじめた吉平は安倍家以外の陰陽師に式占を行わせた。

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2009/12/06 22:53
waisさま
お読み頂き、有難うございまする
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2009/12/05 21:38
深いですな。それにすばらしい。

自分に関わることは「占」ができない。

そのとおりであるがゆえに、深い。



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