「うわーんっっ！うわーんっっ！！！」

ミカエル様のような、立派な大天使になるために、
新米天使として修行中の菊丸天使。

昼休み、天国の門の前を通りかかると、
なにやら、泣き声が・・・。

門の外に目をやると、ウェディング姿の小さな
くまが、ヴェールが濡れるのも構わず
泣きじゃくっています。

「どうしたの？入り口はここよ？」

呼びかけると、くまは一瞬泣きやみ、恨めしそうな
表情で、菊丸天使をジっと見上げました。

「・・・あなたじゃハナシにならないわ・・・。
もっとウエの人を呼んでちょうだいっっ！」

「無理よ、大天使様は、
入り口にはお出かけにならないわ。」

天国に召されたばかりの小さな命ほど、
突然の環境の変化に戸惑って、
混乱したり、虚勢を張ってみたりするもの。

修行中とはいえ、天使の菊丸、多少のことでは
怒ったりしません。くまの身長に合わせてそっと
かがむと、優しく呼びかけます。

「あなたはね、天国に来たのよ。
だから、ここは通過点で、ずうっといる場所じゃないのよ。」

「だってアタシ、天国なんて一人で行かれないもの！」

「じゃあ、一緒に行ってあげるから、いらっしゃい。」

「いやよ！そんなこと絶対に出来ない！」

小熊は、大きな声で叫ぶと、門からちょっと離れて
立ち止まってしまいました。

・・・困ったなあ。時間が経つと、天国にいられるパワーが
減ってしまって、地上に地縛霊として戻されちゃうんだよね・・・。

でも、本人に、そんなコトは絶対に言えません。
なぜなら、気づくことも、本人の魂修行のうちだから。

困った菊丸天使は、とりあえず呼びかけます。

「ねえ、なにか心残りでもあるの？」

「違うわよ！そんなんじゃないっ！はぐれたのよ！」

ぐすぐす泣きながらも、胸を張って応えた花嫁ぐま、ここに
きたまでのいきさつを、少しずつ、話しはじめました。

話をまとめると。

花嫁ぐまの名前は、アンジェ。（天使）
とある結婚式場の引き出物として、この世に生まれてきた。
引き出物なので、お婿さんもいて・・・。
お婿さんの名前は、虎吉（制作者がタイガースファンらしい）
クマなのにトラ？？？なんてツッコミは置いておいてｗ。

ともあれ、ウェディングベアとして生み出された二人、
結婚式の引き出物として、この世に生み出され、
今年の春、とあるカップルの永遠の愛の象徴として、
無事に任務を果たした。
新婚旅行も同行し、新居のピアノの上に、
座り心地の良いソファを与えられ、
そのカップルが年老いて天国に召されるまで、
あとはその行方を見届けるという任務だけだった。

のだが・・・悲しいかな、永遠の愛は、昨今では３ヶ月で
終わることも珍しくないらしい。
なんと、新婚１ヶ月目にして、早くもケンカ、
２ヶ月目になって別居、３ヶ月目にはさっさと離婚・・・
という、テレビドラマのような展開になってしまったのだ！

「何がキミを永遠に守る、よ！こんなモノ要らないっ！」

かくして、永遠の愛の象徴としてこの世に生み出された
ウェディングベアは、哀れ、ゴミ箱行きになってしまい・・・。

「いいのよ、それは！それも運命だから！！」

小さな花嫁ぐまは、懸命に訴えかけてきます。

「問題は、アタシと彼を別々に捨てたコトよ！」

花嫁ぐま、どうやら本気で虎吉君が好きだった模様。

「だってアタシ、人間だった時は、虎吉君に恋していたんだもの！」

何世紀か前、人間として暮らしていた頃、アンジェは、その頃
別の人間として生まれていた虎吉くんに恋をしたものの、
成就することもないまま、一生を終えたのだそうです。

「今度こそ、今度こそって思ったのに！！！」

そういうと、小熊は大粒の涙を惜しげもなくボタボタとドレスに落とし、
シミをつけまくって泣きじゃくりはじめました。

困ったなあ・・・。虎吉君も、いずれここにくるんだろうけど・・・。
なにせ天国は広いので、入り口から先に進んでしまうと、
遭いたくてもなかなか出遭えなかったりするのだ。
菊丸天使の休憩時間は、あと少し・・・。

「じゃあ、虎吉くんと一緒なら、この門をくぐるのね！？」

「当たり前だわ！この世に他に未練なんかないもの！」

本当は、現世に降りるには、天使長様の許可が必要なのだけど・・・。
ま、ちょっとならバレないかな♪

「よし！虎吉くんを探しに行こう！」

菊丸天使は、門から走り出て、勢いよく
アンジェの小さな手を取ったのだった。