「春雨の降った日」
- カテゴリ:30代以上
- 2012/03/07 10:53:48
「お母さん、降ってきたよ~」
「「じゃあ、とってきてくれる?」
「は~い」
春雨の降る日は、どこのお家でもこんなやりとりが聞かれます。
「今日はカレーの春雨が降るでしょう」
テレビの中で天気予報のお姉さんが言いました。
「お母さん、今日はカレー味だって~」
テレビを見ていたユイちゃんがお母さんに声をかけます。
「あら、じゃあ今日はカレー鍋にしようかしらね」
「わ~い」
ユイちゃんはカレーが大好き。
お鍋も大好きです。
ユイちゃんとお母さんは、早速、お鍋に入れるものを買いに行きました。
お家を出たところで、防災無線が聞こえました。
「春雨注意報が発令されています。お出かけの際には、なるべく地下鉄をご利用ください。やむを得ず車を使うときは、春雨用スタッドレスタイヤ、もしくは春雨用チェーンを装着してください」
春雨の降る日は、バスも運休です。
除春雨車の邪魔になってはいけませんからね。
「地下鉄で行きましょう」
お母さんはそういうと、ユイちゃんの手を引いて地下鉄の駅へと向かいます。
地下鉄の駅は、いつもより混んでいました。
「お母さんの手を放しちゃダメよ」
ユイちゃんはうなずくと、はぐれないようにお母さんの手をぎゅっと握りしめました。
地下鉄の車内も人でいっぱいでした。
「私、カレー大好きなの、嬉しいわ」
「私はちょっと苦手、ハヤシ味の方が好きだわ」
そんな会話が聞こえてきます。
「カレーに入れるのは、豚肉か牛肉か」
なんてことを熱心に話し合っている人たちもいました。
「お母さん、お肉は豚肉にしてね」
ユイちゃんは牛肉が苦手です。
スーパーの中も人がたくさん。
やっぱりみんなお鍋にするつもりなのかもしれません。
「お母さん、早くしないと売り切れちゃうよ」
ユイちゃんが言うと、それを聞いた店員さんが言いました。
「大丈夫ですよ。こんな事もあろうかとたくさん仕入れてますから。慌てないでゆっくりと選んでくださいね」
「タマネギ、ニンジン、白菜、お豆腐、ニラに長ネギ~、忘れちゃいけないお肉もね~」
ユイちゃんは歌いながら具を選びます。
「春菊は?」
「春菊嫌い」
「好き嫌いしちゃダメよ」
「は~い」
お母さんが注意します。
「かんぴょう、エノキに、肉団子~。あとは~…春雨!」
「春雨はいらないでしょう」
「そうだった~」
スーパーに二人の笑い声が響きます。
たくさんの荷物を抱えてお家に帰り着くと、いよいよ春雨が降ってきました。
「お母さ~ん、降ってきたよ~」
「じゃあお願いね」
「は~い」
ユイちゃんは、お鍋を持ってお庭に出ます。
春雨をとるのは子供の係。
どこのお家でも同じようです。
お鍋に春雨を受け止めて、たまってきたら春雨ばさみで切ります。
切り口からカレーの香りが漂います。
とっても美味しそう。
ユイちゃんが春雨をとっている間に、お母さんは買ってきたお肉やお野菜を食べやすい大きさに切ります。
「お母さん、とってきたよ~」
「ずいぶんたくさんとってきたわね~」
お鍋の中は春雨でいっぱいです。
お鍋にお水とお出汁を入れて。
お肉とお野菜も入れて~。
その他いろいろ入れて~。
最後に春雨を入れましょう~。
あとはコンロにかけるだけです。
「ただいま~」
お父さんが帰ってきました。
「お帰りなさい。早かったね。今日はカレー鍋だよ」
ユイちゃんが出迎えます。
「そうじゃないかと思って、早く帰ってきたんだよ」
お父さんはお鍋を食べながらお酒を飲むのが大好きです。
お父さんはお酒を飲みながら、ユイちゃんとお母さんはご飯を食べながら、三人でお鍋を囲みます。
「この春雨はユイがとったのかい?」
お父さんが聞きます。
「そうだよ~」
「お父さんも子供の頃はよくやらされたな~。いつも姉さんと競争してたっけ」
お姉さんというのは、ユイちゃんのおばさんのことです。
「わたしも良く妹とやったわ~。妹の方が背が高いからいつも負けちゃうのよね~」
妹というのは別のおばさんのことです。
お父さんもお母さんも懐かしそうに目を細めます。
「背の高さは関係ないだろう」
とお父さん。
「お母さんはのんびり屋さんだから」
これはユイちゃん。
「まあ。そんなこと言う人たちには、食べさせてあげません」
お母さんが鍋を片付けようとします。
「わー、ごめんなさい~」
「許してくれ~、私が悪かった~」
二人とも必死で謝ります。
「じゃあ許してあげます。まだまだたくさんあるから、いっぱい食べてくださいね」
そういいながら、お母さんはお鍋に新しい具を入れます。
「おお、そう来なくちゃ。優しいお母さんは大好きだぞ~」
「ユイも大好き~」
「二人とも調子いいんだから」
ちょっと赤い顔でお母さんが微笑みます。
ここは、春雨の降る町
まだ寒さの残る春の夜が更けていきます。
どこのお家もきっと、笑顔で食卓を囲んでいるのでしょう。
窓から漏れる暖かい光に照らされ、春雨が降り続きます。
「天気予報をお知らせします」
「今度の週末は、桜の春雨が降るでしょう」
「「「桜の春雨!?」」」
おしまい
実は、昨日絵本を読んだ影響もあって、絵を思い浮かべながら書きました(#^.^#)
これは絵本で見てみたい話です。
実際は人にとってもらえなかった春雨が
そこら中に残って、腐敗して、
えらいことになるのでしょう。
次回は、「血の雨」
でホラーをお願いします。(笑)
急ごしらえの割には、うまくいったんじゃないかな、と思います。
もう少し街の様子なんかを描いてもよかったかもしれませんね~(#^.^#)