■近代文藝之研究｜研究｜美學と生の興味｜下　生の増進と美｜一　（７）

第四に數ふべきは、現に美中の或部分が生活作用そのものから成立するといふ事である。フランスのギヨーがスペンサー等の生活分離説に反對した有名な實感説はその例である、即ち或る境に於いては、我れの生活を助ける作用が直ちに美になると見る。例へば夏の長旅に疲れた人が美しく熟した一籠の葡萄の實を見て之れを食ふ快味を覺える情は決して美感の快味と根本を二にするものでは無い、といふに歸する。此の説に就いては、異論の餘地も多からうが、幾分たりとも眞理とすれば、茲にも美と生との分割を難んずるの根據がある。



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＊註１：部分・分離・幾分・分割
「分」の旧字体。
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「割」の旧字体。
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＊註２：ギヨー
ジャン＝マリー・ギュイヨー（Jean-Marie Guyau／1854年～1888年）。フランスの哲学者、詩人。フランスのニーチェと呼ばれる実証主義者で、ニーチェにも影響を与えた。『義務も制裁もない道徳の素描』（1885年・刊）

＊註３：分離説・實感説・此の説
「分」の旧字体。
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「説」の旧字体。「言」＋「兌」。

＊註４：或る境
「境」の正字体。
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＊註５：食ふ
「食」の旧字体。
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＊註６：覺える情
「情」の正字体。「月」が「円」。

＊註７：茲にも
「茲」の俗字体か（？）。
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＊註８：難んずる
「難」の旧字体。
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月（滝太郎）著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

（2014/08/10/初校）