自作小説 奇跡の降る夜8
- カテゴリ:自作小説
- 2012/01/18 17:05:50
日々は駆け足だ。
あの体験の後、彼女は検索をかけた。
「ゼロ件です」
予想どおりだ。私は未来の異空間に行ったのは確かなようだ。
それ以上何ができるだろう?あの体験を振り返る余裕もないまま、時間が過ぎていく。
会社では本来業務に加え、新人研修の仕事も受け持っていた。
「その分の給料は上がらないのに」
ぶつぶつ独り言を無意識に言っていたようだ。
「すみません、先輩」
一か月前、入ってきた翔担当の新人が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「あなたが謝る問題でないわ。私は扶養家族に責任があるんで、しっかり稼ぎたいだけよ」
「先輩って独身じゃなかったんですかっ?」
「独身だけど?」
「じゃあ、シングルマザーですかっ!?」
からかいがいのある、まっすぐさが翔にはうらやましかった。
「ペット飼ってるの、私のだいじーな扶養家族」
翔は笑いながら答えた。
「ペットですか~。僕も動物は好きなんですけどね。先輩は何飼ってるんですか?」
実は、この質問が微妙に居心地が悪い。
「鳥…いんこ」
しかし、いつもなら「へぇ~、鳥ですか」とか、「昔、親が飼ってました~」で途切れる会話なのだが、この新人は目を輝かせながら
「まさか、お仲間がいるとは!僕も鳥が好きなんですよ。まだ扶養家族を養えない甲斐性なしですが」
「一年もすれば、私よりずっと甲斐性持ちよ」
ちょっと苦々しい気持ちがよぎる。私を先輩と呼んだかっての新人は数年後には私の上司なのだ。そんな翔の気持ちに気づくことなく、
「まじで、いいショップ紹介してください。扶養家族探しには、つきあってくださいね」
「その前に、甲斐性持ちましょう、ほい、資料」
新人の遠藤を追い払うと、そうだ、扶養家族の食糧仕入れにいかなきゃ。
ショップでいつもの餌を買い込み、支払いをすませた翔に店員が声をかけた。
「店が移転することになりまして」
「えっ!?」
「そんな遠くではないのですが、ちょっと路地裏のわかりづらい場所で、地図を差し上げますので、これからも・・・」
店員の話は続いていたが、翔は呆然とした。ここにペットショップがなくなるーそれは異次元でもらった合図だ。
翔は、支払いをすませると、隣の喫茶店に飛び込むと急いでノートパソコンを開いた。家まで待ってるなんてできなかった。羽太郎からの合図なのだから。
検索画面に打ち込む指が震えていた。「いんこなひび」そしてクリック。
ヒットした。一件。
「見つけた・・・」
震える手でサイトを開いた。
(つづく)
読み手さんをじらします~w「LOST]のようにwww←書き手の特権です
鳥を飼う人はマイナーですよね
もっと沢山の人に読んで欲しいなぁ。。。