Nicotto Town


晴明伝説・民間信仰・音楽・漫画アニメ


『稲生物怪録』その弐

 絵本だってあるぞ。『ぼくはへいたろう』は児童向け絵本。少年然とした平太郎が描かれる。頁の都合上、三夜ほどしか妖異が書かれてなく、異国(バテレン風?)の殿様な魔王「山本」が現われる。女の首のみの怪は艶やかな顔だちで児童向けに大丈夫かしらと思う。平太郎の苦手なものはミミズではなく、カタツムリにすり替えられており、魔王から貰う木槌も広島らしく(?)杓子になっている。何か不都合があったのだろうか?

『ヘイタロウ妖怪列伝』は小学生低学年対象の児童文学かと思われるが、平田本の構成を3巻に分けて1ヶ月に渡る妖異を全て載せている。子供向けに分かり易く書かれている文章は良いとして、アニメチックな挿し絵が凄い。七夕の夜に出た串刺し坊主なんて、絵巻物にくらべると悪意に満ち満ちた表情に描かれている。その他の妖怪もかなり恐い。ここまで描かないと最近の子供は興味を示さないのか。  変った観点から紹介しているのが、荒俣宏の『怪奇の国ニッポン』。諸本から平田本として『稲生物怪録』をまとめた、江戸の妖怪研究家平田篤胤の研究が主眼。篤胤とその門弟が如何にして研究し、まとめ上げて行ったかを考察している。上記の本とは違った解説が博学の怪人物荒俣氏によって繰り広げられている。

他に民俗学者の折口信夫(しのぶ)も平田本を愛読して、「稲生物怪録」と題する俄(にわか)狂言を書いている。それが折口信夫全集の24巻に収められていて一度は手に取ったが、「創作物はねえ…」と興ざめて読んでいない。

明治の妖怪哲学者(?)井上円了センセーも「稲生物怪録」について言及しているが、小説的構造として「幻覚」「妄想」「妄覚」と、厳しい批判。しかし納得できるほどの論考ではないので、それこそ「妄説」なるべし、とうっちゃっておいても良かろう。

最後にヤングキングコミックス『朝霧の巫女』も取り上げておかねばなるまい。『稲生物怪録』をモチーフに現在の三次を舞台とした伝奇ラヴコメ漫画である。作者は民俗学の深いところまで造詣があるようで裏設定や伏線などは興味深く、陰陽頭なんかも出てきたりして個人的には「萌え」のはずなんだが、不要と思えるラブコメ、狙ったような同人誌的ノリ、ダラダラとして進まない展開が苦手で(テンポの悪さはプロの仕事とは思えない)、個人的にはお奨めしかねる。三次市歴史民俗資料館で女性館員さんに「朝霧の巫女関係での見学ですか?」と尋ねられ、私は機嫌を悪くし、強く否定した。だって、私コミックスのファンじゃなくて、『稲生物怪録』そのもののファンなんだもん。  何はともあれ、この夏は是非『稲生物怪録』ご一読あれ。


文献紹介
「稲生物怪録」(平田篤胤編)須永朝彦訳
(『書物の王国18 妖怪』)国書刊行会('99)

『稲生物怪録絵巻 江戸妖怪図録』谷川健一 小学館('94)

『稲生物怪録と妖怪の世界~みよしの妖怪絵巻』
広島県立歴史民俗資料館('04)

『江戸の妖怪絵巻』湯本豪一 光文社新書('03)

『ぼくはへいたろう』小沢正:文 宇野亜喜良:絵 ビリケン出版('02)

『ヘイタロウ妖怪列伝』千葉幹夫 リブリオ出版('06)

『怪奇の国ニッポン』新日本妖怪巡礼団 荒俣宏 集英社('97)

『朝霧の巫女』平成稲生物怪録①~④(続刊中?)
 宇河弘樹 少年画報社

アバター
2009/06/03 23:09
『怪奇の国ニッポン』新日本妖怪巡礼団を読むまで、このお話は、私は知りませんでした。

面白いですよ。是非、本を探してみてください。
アバター
2009/06/02 20:42
子供用に編集されてると言う事は、かなり親しまれている物語なのでしょうか…?
物凄く好奇心を刺激されて仕方ない…!(笑)



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.