一月自作「男『若き男の子の悩み』」
- カテゴリ:自作小説
- 2012/01/02 00:26:56
粉雪の舞う暗い空に白い月が浮かび、海に同じ色の影を落としている。おかげで、陽は沈んだが道は明るい。
咲はちらっと隣を見上げて眉間に薄く皺を寄せると、そのまま足元に視線を落とした。並んで歩く辰也の様子が、ずっとおかしかった。
いつもなら人目の少ない道に入れば、高校の制服を着たままでも気にせずに手を繋いで、互いの体温を掌に感じながら歩くのに。今日は咲に触れようともしない。月の無い夜のような暗い目をしてとぼとぼ歩く辰也の靴先を見て咲はうなだれた。
――嬉しいはずなのに……
つい先刻、出産で実家に戻っていた辰也の姉が子供を産んだ。予定より二週間も早かったせいで夫は間に合わなかったが、とにかく子供は無事に産まれた。
幼少の頃から幼馴染で互いに両親も親しい咲にとっても、この姉の出産は他人事ではない。
だから、今夜は病院に泊まるという辰也の母から咲が出産の連絡を受けて病院にかけつけ、更に辰也の夕飯の世話を頼まれても別段不自然なことではない。
不自然なのは、辰也だった。
姪の誕生を迎えて喜ぶどころか、廊下の長椅子で膝に頭を埋めるようにうずくまっている彼を、母親も心配したのだろう。
一緒に帰るようにとタクシー代を渡されたが、何とはなしに車を呼ぶ気にもなれず、二人は歩いて帰路についた。
一言も口を開かない辰也に何度も咲が話かけるけれど、ついに返事は聞けないまま家が近づく。
『ふぅ』と咲が軽く吐いた溜息に、揺らされたように辰也が足元をふらつかせた。
「大丈夫?」
どうせ返事はないだろうと思いつつも聞いてみたら、意外にもあっさりと、重苦しい声が返ってきた。
「悪い。雪に酔ったみてぇ」
確かに目の前でちらちらする粉雪をじっと見つめていると眩暈を感じてくる。けれど辰也の眩暈は雪のせいだけではないだろう。
「大丈夫?」
咲は傾いた辰也の肩に手を差し出した。けれどその手は宙を舞い、冷たい空気を掴んだだけで咲の胸元に戻ってきた。
辰也が身をよじって、差しのべられた手を避けたのだ。そして道なりに続く堤防に寄りかかり、呟いた。
「俺、嫌だな……」
「何が?」
恐々と隣に並ぶ咲の顔を見ようともせずに、辰也は続ける。
「俺たち、このまま付き合ってたら咲も子供産むようになるのかな……」
辰也の視線の先に、白い静かな月が揺れる。
「咲も、あんな風に苦しんで痛い思いして、唸り続けて、出てきたらげっそり痩せて。そんなの、俺、嫌だ……」
「そんな、まだ先の事」
つとめて、明るく笑い飛ばそうとする咲の目を、辰也はじっと見つめた。
「咲、知ってる? タツノオトシゴって、雄が自分の体で卵を育てて小魚を産むんだよ。凄いよな。人間もそうできたら、いいのにな」
今まで咲を避けていた辰也の手が細い肩を抱き寄せる。
「こんなに細っこくて折れそうなのに、何であんな辛い思いして産まなきゃならないんだろ。俺、咲があんなに苦しむの嫌だよ、絶対」
二人が幼馴染の境界を越えて、鬼ごっこで捕まった延長のようにあどけなく唇を重ねたのは、高校に入学した春だった。
そのあどけなさとうらはらに、辰也が緊張に震える指で咲のシャツのボタンを弾いたのは、ほんの五カ月前、二年生の夏だった。
確かにこのまま付き合いが続けば、咲も命を産みだすことになるだろう。とはいえ、それはまだ遠い先の事だと二人は思っていた。
けれど姉の出産を、母親と一緒に陣痛からずっと見守ってきた辰也は、半日がかりの長い姉の苦痛が、やがて咲にも襲ってくるのだと、怖くなってしまったのだ。
「……医学が進んで、人間もタツノオトシゴみたいに男が出産できるようにならないかな。俺の方が咲よりずっと頑丈だし体力だってあるんだから……」
そこまで言って辰也は、バカな事を口走ってしまった! と慌てて気まずそうに笑い
「ほら、俺も『辰』じゃん? もしかするとできるかなーって」
「……バカねぇ……」
咲も笑って答える。
「辰也にできるわけ、ないじゃない。人間で男なんだから」
言った唇が、思いがけず溢れてしまった涙で揺れて、咲は辰也の肩に顔を埋める。
涙の理由が解らずに困り果てて辰也は
「咲ぃ、俺……腹減っちゃったよ」
どうしていいのか解らずに話を逸らす。
咲も『ふっ』と小さく笑って
「そうよ。そんな先の問題より、今は辰也の御飯よ。何が食べたい?」
「チャーハンかな」
落ちてくる雪を払いながら二人は再び掌を重ねて堤防から離れた。
浪間に漂う月の影が、肩寄せ家路に戻った二人の背中を、じっと見守り続けている。
「今日は来てくれてありがと。咲」
囁いた辰也の声が、雪に紛れて海に溶けた。
読んでくださってありがとう(´▽`)
こういうラブラブなお話って、自分で書いててほんと恥ずかしいですねぇ^^;
避妊……学校の保健の授業と、それっぽい漫画に一任します!><
辰也くんの不器用だけど純な優しさと
咲さんの包み込むような母性と理由にならない不安さ。
物語だけれども「末永く二人でいられるといいな^。^」と思いました。
他の方のコメントにもあるのですけど、近いうち避妊のこととか
きちんと教えないといけないですよね?^^;
(なんかこう~、その・・・照れる?男って、いざという時にはたよりにならんなあ~!って
思っちゃいます、はい・・・ーー;)
読んでくださってありがとう(´▽`)
まぁ…まだ辰也も子供なので…(笑)
咲が子供産む頃には強くなってくれるかと…
お褒めくださり、ありがとうございましたー(´▽`)
なにしろ確実に自分にやってくるんだから。
そこで青くなっているより、「俺、ずっと手にぎっててやるから!」なんていうほうが格好いいぞ!
でも・・・・・確かにショックだろうね。
そのへんの繊細さがよく表現されていて素敵でした^^
読んでくださってありがとう^^
人の心情の表現って、実はめったくそ苦手なんですが、
褒めていただいて嬉しいです(´▽`)
ありがとうございますvv
元気百倍で2月のお題も書いてみますね^^
男の子の心情が手に取るようにわかる描写に尊敬します!
素敵な物語を読ませていただきました。
読んでくださってありがとう^^
トラウマになって、それを二人で乗り越えるのも
ドラマかな~とも、思ったり(´▽`)
女性にしか語れない世界ですね
生き物の生々しさと月の夜に降る雪の冷ややかさ
対比がいいです
避妊は必ずしてしましょう
なんて言いたくなりました
トラウマにならなければいいのですが
読んでくださってありがとう^^
確かに出産の前では男の人は無力でしょう。
でも『居てくれるだけで心強い』そう思わせてくれる人であってほしいです^^
えー中身女なの?
あたしもそうすればよかったなへvv
辰也君はこれからしっかり避妊しすぎて
逆にうとまれる男の子に成長するような…
アバ男ですが、中身は女です。よろしくお願いしますm(_ _)m
辰也くん、優しいですね。若い男の子には、出産は衝撃なのかなぁ・・・
これから彼は、避妊をしっかりとするのでしょうね!!
読んでくださり、またお褒めいただきありがとうございます^^
今度は私から、シエルさんの作を読みに行かせてくださいね。
辰也さんの純粋さと咲さんの涙とが
海に溶ける粉雪とマッチしていて 綺麗だなと思いました。
辰也さんの最後の言葉に、咲さんへの愛情を感じて ほっこりしました。
読んでくれてありがとう^^
私も自然分娩は経験ないんですけど、出産関係は以前関わった仕事で縁があったので…
出産直後ってホントに人相変わるくらいハードみたいですね。
男の子には、こういうハードさを知った上で女の子とつきあってくれると、理想ですねぇ
読んでくれてありがとう^^
あたしも、こんな高校生カップル今時居ないんじゃないかって思ってます。
でも居るといいなぁvvと憧れます。
……ネタにもなるし……(マテ)
読んでくれてありがとう^^
自分で書いてナンですけど、正直甘ずっばすぎて恥かしいブツになっちゃいました。
でも物語の中の人たちが幸せならそれでいっかー(´▽`)
人ごととしてかたづけない男子は理想だと思います。
辰也さんには、ずっとこうで居てほしいですね。
純朴さと慈しみ。
小さい頃に人の痛がる姿を見て・・・
大丈夫?って心配になったこと。
すごく怖かったこと。
いっぱい感じた想いが懐かしさと眩しさで蘇ってきました。
そして。
憧れてしまう恋人を尊び愛しく想うこと。
恋人に寄り添い、格好つけずに飛び込む気持ち。
ぎゅっと包む幸せがありますように。
ありがとうございます(´▽`)
でもホントにこんな事考える男の子って居るのかな…と書いてみてちょっ疑問(笑)
男の子って、馬鹿だよねぇ…って話を書きたかっただけなんですが(笑)
読んでくれてありがとー^^
辰也の純粋さがすきです^^
読書とか大嫌いな私でもスイスイ読めました!!
書いてみたらゲンコ用紙20枚超えたのを
無理やり削り倒して……汗
最初は干支の「辰」で書いてたのに、どんどん干支関係なくなっていってしまい
テーマ2に変更…--;