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迷宮 11 前編


 玲は祖母に本当のことを告げて、まっすぐ両親の墓を訪れた。  
 そして、静かに手を合わせる。  ちいさいころに亡くなった両親のことは玲は余り覚えていない。 だが、何かあった時は必ず、墓を訪れ、自分で報告することにしているのだ。  
 「お父様、お母様。―――どうしたらいいの?」  
 玲は墓石に手を触れ、そう呟いた。  だが、どうしたらいいかなど、応えてくれるはずもない。  
 (忘れられるの、かな・・・?)  
 そう自問してみる。    
 今朝早く自宅に戻った玲は、ずっと孝也のことを考えていた。  
 『孝也くんの好きな人が、夏季さんみたいな人じゃなかったらよかったのに・・・。』  
 そう思いもした。 そうすれば、自分だってがんばれただろう・・・。 玲にとって、昨夜、孝也に自分からKissしただけで精一杯だった。  
 本当によく頑張ったと思う。  
 そう思いながらも、また新たな涙を流した。  
 「泣くくらいなら、逃げなきゃいい。」  
 玲の耳に、あきれた声とため息が聞こえた。  
 玲はその声に大きく肩を震わせ、顔を上げた。  
 コツ。コツ。・・・。  
 墓の前で動けずにいる玲に一歩一歩近づく男性の靴の音が響く。やがてその音は玲の真後ろで止まった。  
 「玲?こっちを向いてくれ?」  
 優しく耳元で紡がれる言葉に従い、玲がゆっくりと振り返った。  
 「孝也くん・・」  
 玲は知らず知らずのうちにそう呟いていた。  
 「なんで、いなくなった?」  
 少し怒ったような孝也の声に、玲はそっと俯いた。  
 「・・・だって・・・。」  
 玲は、そう言うとまた押し黙ってしまう。その言葉を続けたのは、質問をした孝也だった。  
 「俺が夏季さんを好きだと思ったから?」  
 そう問いかける孝也に玲は俯いたまま頷いた。  
 「俺は「夏季さんを好きだ」って、一度でも玲に言った?」  
 「・・・・・。」  
 「思い込み、だと思わないか?」  
 「―――だって、夏季さん。あんな素敵なんだもんっ。孝也くんが好きになったって仕方ないって思うもん!!」  「当たり前だろ。俺の従姉だから。俺の好きな人は別にいるよ。」  
 「・・・・・・。」  孝也のその言葉に玲は背中を向けた。  
 「―――知りたく、ない?」  
 そう問いかける孝也に玲は静かに首を振った。 玲の肩で、長い髪がそっと広がる。 孝也は玲にそっと近づいて、その後姿をそっと抱きしめた。  
 「俺がずっと好きだったのは―――愛していたのは玲、だよ。」  
 「え?」  
 玲の身体が揺れ、その背中が孝也の胸に深く沈む。  
 「ずっと、好きだった。玲がはじめに婚約するずっと前から・・・。だいたい、どれくらい相手が困っていたとしても、好きじゃないヤツと婚約なんてしないよ、俺。」  
 そういって一層強く、玲を抱きしめた。 その孝也の腕を玲の涙がそっと濡らした。  
「・・・玲。玲から俺に愛の告白はないの?」  
 そう悪戯っぽく耳元で囁く孝也の耳に、か細い声が響いた。  
 「私も、孝也くんが好き、です・・・。」  
 そう言いながら、孝也の腕を抜け出し、その唇にそっとKissを落とした。  
 孝也は玲に嬉しそうに笑うと、彼女の腕を捕まえて、彼女の両親の前で誓いのKissを交わす。  
 それは、半年後に行われる結婚式の予行演習だった。


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