契約の龍(44)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/29 00:41:30
クリスが復調するまで、ほぼ丸一日を要した。
俺も、慣れない運動をしたせいで、あちこちが痛い。
本を読みながら、カウチでまどろんでいると、セシリアが部屋の中で放しているリンドブルムが、心配そうに時々やって来てはまとわりつくので、そのたびに、「大丈夫だから」と頭を撫でてやる。何回かに一回は、撫でているのがセシリアの頭だったことに、夕刻になって気付いた。…本当に、慣れないことはするものじゃない。
「ユーサーの外見、が判る史料、ですか?」
歴史編纂所の主任研究員は戸惑ったような表情を浮かべた。
「それも、できるだけ真実に近いものを」
クリスがそうたたみかける。
「絵とか彫刻とかでなくても構いません。身長がどのくらいとか、体格がどうだったとか、髪や肌の色がどんなだったか、っていう記述だけでも。……ないでしょうか?」
「どうでしょうねぇ……「髪が赤かった」ということだけはどの記述にもあるし、彼の二つ名が『疾走する炎』だったことからみても確かなようですが、それもどの程度の赤さだったかというと、「燃えるような赤」だとか「くすんだ赤」だとか「赤錆色」とか……色々あって。容貌とか体格とかについては、はっきりした記述がないですね。少なくとも、信頼のおけるやつでは。特に目立つような特徴がなかったのではないでしょうか」
「ない、ですか……少々疑わしいのでも?」
「ユーサーについての記録は、ほとんどが彼の死後書かれたものばかりですからね。信頼性、という点では怪しいものばかりかと」
「ここでも判らない、かぁ…」
クリスががっかりしたような声で言う。
「何で急にユーサーの外見なんかを気にしだしたんだ?」
「馬鹿龍が呼んでたんだ」
「…は?何を?」
「潜ってる間じゅうずっと「ユーサー…ユーサー…」って。うるさいというか、鬱陶しいというか…」
鬱陶しいって…
「あのー…馬鹿龍、というのは…?」
研究員が怪訝そうな表情で尋ねる。
「な、なんでもないっ、ですっ。こっちの話でっ」
「…だから、その呼び方はやめろ、と何度も言っているのに」
「悪かった、反省する」
「もしかして…ユーサーの龍の事でしょうか?」
「すみませんごめんなさいその通りですぅ」
クリスの様子を見て研究員がぷっと吹き出す。
「…一緒に暮らしていなくても、やはり、親子ですねぇ……陛下も以前そのような悪態を」
「……ついてましたか?」
「はい。…もっとも、陛下の方がもっと聞くに堪えないような言葉でしたが」
ゲオルギアを否定しても、血は争えないんだなあ。
「龍がユーサーを呼ぶ声を聞いた、というなら、龍への接触は叶った、ということですね?おめでとうございます」
クリスの顔が曇る。
「接触、できたっていうのかなあ、あれ。意思の疎通っていうのが全然取れなかったんだけど」
クリスの語るところによれば、「龍」は何かを後生大事に抱えていて、近寄ろうとすると攻撃しかけてくるんだとか。
「…で、「龍」の姿はわかった?」
「おおむね、人の女性の姿、に近いと思う。全身が見えたわけじゃないけど、青くて、長かった」
「…長い?」
「恐ろしく丈の長いドレス、のようなものをまとっている…ように見えた。少なくとも、胸のあたりから上は、人の女性の姿をしていた。ただし、色は青かった。肌とか髪とか。……こんなところかな?」
ラーミア、とかゴーゴン、のようなもの……だろうか?だがそれでは、あまり「龍」とは呼ばないような気がする。もっと「龍」らしい形態もあるのだろうか?
いずれにせよ、このあたりにうろうろしているようなモノではない。
……どこで出会ったんだろう、ユーサーと「龍」は。
龍の謎 まだまだいっぱいありそうデスね^^
楽しみにしています♪