Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(44)

 クリスが復調するまで、ほぼ丸一日を要した。
 俺も、慣れない運動をしたせいで、あちこちが痛い。
 本を読みながら、カウチでまどろんでいると、セシリアが部屋の中で放しているリンドブルムが、心配そうに時々やって来てはまとわりつくので、そのたびに、「大丈夫だから」と頭を撫でてやる。何回かに一回は、撫でているのがセシリアの頭だったことに、夕刻になって気付いた。…本当に、慣れないことはするものじゃない。

 「ユーサーの外見、が判る史料、ですか?」
 歴史編纂所の主任研究員は戸惑ったような表情を浮かべた。
 「それも、できるだけ真実に近いものを」
 クリスがそうたたみかける。
 「絵とか彫刻とかでなくても構いません。身長がどのくらいとか、体格がどうだったとか、髪や肌の色がどんなだったか、っていう記述だけでも。……ないでしょうか?」
 「どうでしょうねぇ……「髪が赤かった」ということだけはどの記述にもあるし、彼の二つ名が『疾走する炎』だったことからみても確かなようですが、それもどの程度の赤さだったかというと、「燃えるような赤」だとか「くすんだ赤」だとか「赤錆色」とか……色々あって。容貌とか体格とかについては、はっきりした記述がないですね。少なくとも、信頼のおけるやつでは。特に目立つような特徴がなかったのではないでしょうか」
 「ない、ですか……少々疑わしいのでも?」
 「ユーサーについての記録は、ほとんどが彼の死後書かれたものばかりですからね。信頼性、という点では怪しいものばかりかと」
 「ここでも判らない、かぁ…」
 クリスががっかりしたような声で言う。
 「何で急にユーサーの外見なんかを気にしだしたんだ?」
 「馬鹿龍が呼んでたんだ」
 「…は?何を?」
 「潜ってる間じゅうずっと「ユーサー…ユーサー…」って。うるさいというか、鬱陶しいというか…」
 鬱陶しいって…
 「あのー…馬鹿龍、というのは…?」
 研究員が怪訝そうな表情で尋ねる。
 「な、なんでもないっ、ですっ。こっちの話でっ」
 「…だから、その呼び方はやめろ、と何度も言っているのに」
 「悪かった、反省する」
 「もしかして…ユーサーの龍の事でしょうか?」
 「すみませんごめんなさいその通りですぅ」
 クリスの様子を見て研究員がぷっと吹き出す。
 「…一緒に暮らしていなくても、やはり、親子ですねぇ……陛下も以前そのような悪態を」
 「……ついてましたか?」
 「はい。…もっとも、陛下の方がもっと聞くに堪えないような言葉でしたが」
 ゲオルギアを否定しても、血は争えないんだなあ。
 「龍がユーサーを呼ぶ声を聞いた、というなら、龍への接触は叶った、ということですね?おめでとうございます」
 クリスの顔が曇る。
 「接触、できたっていうのかなあ、あれ。意思の疎通っていうのが全然取れなかったんだけど」
 クリスの語るところによれば、「龍」は何かを後生大事に抱えていて、近寄ろうとすると攻撃しかけてくるんだとか。
 「…で、「龍」の姿はわかった?」
 「おおむね、人の女性の姿、に近いと思う。全身が見えたわけじゃないけど、青くて、長かった」
 「…長い?」
 「恐ろしく丈の長いドレス、のようなものをまとっている…ように見えた。少なくとも、胸のあたりから上は、人の女性の姿をしていた。ただし、色は青かった。肌とか髪とか。……こんなところかな?」
 ラーミア、とかゴーゴン、のようなもの……だろうか?だがそれでは、あまり「龍」とは呼ばないような気がする。もっと「龍」らしい形態もあるのだろうか?
 いずれにせよ、このあたりにうろうろしているようなモノではない。
 ……どこで出会ったんだろう、ユーサーと「龍」は。

#日記広場:自作小説

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2009/05/29 20:04
44話 読了です
龍の謎 まだまだいっぱいありそうデスね^^
楽しみにしています♪



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