Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(41)

 軽い衝撃があって、自分の体に戻ったのに気付く。
 傍らのクリスの様子を窺う。
 呼吸が浅いが、前の時ほど消耗した様子は見られない。
 微かに身じろぎして、ゆっくりとまぶたを開ける。
 「アレク?…食べられてない?」
 「現実の体の方は、大丈夫そうだ。……ちょっとこわばってるかな?」
 反対側の腕を曲げ伸ばしして見せる。
 「時間は……どれくらい経ってる?」
 「さあ…外は明るいから、半日は経っていないかと思うが。…遮蔽を解いても、大丈夫そうか?」
 「うん……今はおとなしくしてるみたい。クレメンス大公の「金瞳」の状態は判らないけど」
 言われて、大公の方に目をやる。何事もなかったかのような様子だ。
 「見たところ変化はないようだけど……失礼して、ちょっと胸元を開けてみてもいいものかな?」
 「…あとからちゃんと戻しておけば、差し支えない、と思う。当初の予定では、私がそこから潜行する予定だったんだから……それに、モリー医師は、毎日診察のために開けてる」
 「それもそうか」
 お墨付きをもらった、ということで、失礼してベッドの上掛けを剥いで、大公の寝間着の前を開けさせていただく。
 「これは…」
 思わず息を呑む。
 大公の胸部全体をほぼ覆う大きさの目がそこにあった。しかも、その黒々とした瞳孔はほぼ円形をしていて、その名の由来である、金色をした虹彩の部分の部分は、ほとんど見えない。
 「確かに、怖い。……モリー医師は、毎日これに触れてるのかな」
 「職業意識で、恐怖を押さえているのかもしれないな。魔力を感じない人にとっては、痣や入れ墨と同様なのだそうだから」
 「…誰から聞いたんだ?そんなこと」
 「誰だったろう…?もう十年近く前……初等学校に行ってた頃の友達か、その親か…そのあたりだと思う」
 「初等学校?」
 「ああ。十歳前後くらいの子供を集めて、簡単な読み書きとか、計算とかを教える……この国の周囲の状況とか、王国史なんかも、かな。……クリスは行ってないんだ?」
 「そういう施設があるのは、都会だけだと思う。だから、私が王国史に疎くたって、恥じるところは何も無い」
 言い切った。
 あまりに堂々と言い切るので、思わず苦笑が漏れる。
 「でも……クリスのお祖父さまは、ちゃんと王国史を習ってるはずだよ?」
 「教わるような機会がなかったから。必要もなかったし」
 「必要ない、ねぇ…まあいい。問題は、この「金瞳」が活性化してるかどうか、だったな。…こんなに開いてるのに、魔力を放つ兆しもないな」
 「それはどうかな。ちょっと離れてて」
 クリスが指先に、小さな灯りを点す。灯りが指先を離れて、ふわふわと大公の方へ漂い……消えた。
 「やっぱり食われた。「エルク」が近寄らないのは、正しい」
 そう言って、大公の寝間着の前を合わせ、上掛けを元に戻す。
 「…たったこれだけの間にも、随分持ってかれた気がする」
 クリスの手が、血色を失って、蒼白くなっている。
 「なんでそういうことを自分でする…!」
 急いでクリスの手を取る。冷たい。
 「だって、アレクには、ここの遮蔽を解除してもらわないといけないし」 
 …そうだった。
 空いた方の手で、室内の遮蔽を解除する。その間にクリスが何か小声でつぶやいたような気がしたが、改めて訊くと、独り言だ、と返ってきた。

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