星を盗む男 (4)
- カテゴリ:映画
- 2011/11/14 19:55:28
(構える前に体制を整えられるか?)
目線で互いに牽制をしあいながら、俺は武器を探した。
幸い刀は左手の先2mくらいのところにあった。
一瞬の隙を見出し、そちらへ転がろうと体を起こしたまさにその瞬間。
左耳のすぐ横を弾丸が通過して行った。
「……動くな」
感情の見えない言葉を吐くと
男は油断なくリボルバーの撃鉄を起こした。
抵抗の意思を見せないように、ゆっくりと見上げると
男の口角の上がった口が、開くのが見えた。
「まだ、やり合おうって心意気は買うけどさ…あんたもう、負けてるんだよ」
男は銃口をこちらに向けたまま、女に声を掛けた。
「危ない所だったな! 大丈夫かい? お嬢さん」
「ええ、助かったわ」
女は男の手を借りてノロノロと起き上がった。
たかだかナイフを飛ばしただけだ、手首の捻挫がいいところだろう。
そうなると2対1という形勢は、極めて悪い。
加えてコチラは腕を負傷をしている。
どう考えても、勝てる道理など無さそうだ。
(今度はこちらが諦める番か なにが、今日のヤギ座の運勢は1位だよ…)
出掛けにロビーでちらりと見た、アナウサーの笑顔が脳裏を掠めた。
生きて帰れたらテレビ局にクレームでも入れてやろうか?
などと考えていると女が動き始めた。
「そのまま、しばらくそいつを押さえていて」
そう言い残すと、彼女はドアの向こうの工房へと消えていった。
「ああ、わかった」
男は、ニヤニヤしながら俺を見下ろしていた。
しばらくして、再び姿を現した彼女の手には、あのスーツケースが握られていた。
女は男に対して、手のひらを下に向け、上下に小刻みに動かし。
そのままそのままというジェスチャーをしながら、倉庫の出口へと向かっていった。
このままでは逃げられてしまう。
声を絞り、万が一に賭けて見ることにした。
「おい、逃がす気か? あっちが悪者だぜ!」
「いいねぇ、いかにも悪者がいいそうなセリフだ」
まるで意に介す様子もなく、油断なく銃口をこちらへ向けたままだった。
しかしトンという何かに飛び乗る音と続くエンジン音に、さすがに男の顔色も変わった。
「おいおいマジかよ」
男は銃を下ろし、出口へ駆け出した。
俺もそれに続き倉庫の出口に駆け寄ると、女はモーターボートを出発させる所だった。
(ありがとう、お間抜けな正義の味方さん)
そう言うかのごとく片手をあげると
ボートは一瞬で街灯の照射範囲を越え闇に飲み込まれていった。
音だけとなった水面から、意識を引き上げると、
男と俺は顔を見合わせ、同時につぶやいた。
「はぁ~女って怖いね…」
しばらく見つめ合った後、男に問いかけてみた。
「とりあえず、戦う理由は無くなったわけだが、まだやるか?」
「そりゃ、終わりでしょ!今あんたをぶちのめすことにな~んの価値もないもん」
「価値ねぇ…」
「で、あのスーツケース一体なんだったんだ?」
「金だよ、ざっと1億以上はあったかな?」
「そりゃ、ちょっと勿体無いことしたな」
「そうだな、ちょっとだけな」
(そういえば)
先ほどの違和感の正体を確かめるべく工房に引き返した。
「おいおい、どうしたんだ?」
男も、後を追うように付いて来た。
「なあ、ここ変だとおもわないか?」
少し遅れて部屋に飛び込んできた男に声をかけた。
「ん~いや特には感じないが…。そうだなぁ強いて言うなら同じ絵ばかりだな」
「同じ絵…」
「この青空の絵ばかりあるじゃないか」
はっとした、言われてみれば『星を見上げる少女』の贋作だらけだった。
なるほど、ひっかかっていたのはその部分だ。
「これってあれだろ?『ローゼンファイル』の眠っているって噂の絵だよな?」
再びはっとした、そうだローゼンファイル!
ローズ・F・キャラウェイの遺産。
それこそが良く効く鼻が嗅ぎつけた違和感の本当の正体なのかもしれない。
「おいおいどうしたんだよ? 突然固まっちゃってよ…まさか?」
「そのまさかが、埋まってそうな気がするんだ」
「そんな上手い話あるわけないだろう?」
男は少し呆れた声を上げた。
「ま、ハズレでもバイト代くらいは出すさ」
偽札に違いない・・。
遺産かぁ・・。今日の運勢が1位なんだし、見つかるといいね。
言ってみたいものだなぁ(・ω・)
続き楽しみにしていますw