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■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味(26)

■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味|中 遊戯説|一 (5)

二つの凝滯したものゝ溶け合ふ所に美が活現しはじめるといふ思想は、無論カント以來既にある所で、譬へば形と命とが坩堝の中の二塊の金屬のやうに、何時かのはづみで、とろつと溶け合ふ、其の瞬間から、もう今までの凝滯した固形物ではなくして、融會無碍な流動體になつて活動する。または明けがたの空に見つめてゐた星が、つるりと滑る、其の拍子に我が眼底の一膜を切り落としたやうに感ぜられて、今まで形と見た萬象が生きて動いて來る。結局何等かの一轉機で、我が心の栓が拔け、自由に八方に溢れ漲る状態を美の感じと見るのである。吾人は此の種の説が非科學的であるに拘らず、審美上の事實の一面に觸れたものとして之れを重んずる。



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*註1:二つの凝滯したものゝ
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:溶け合ふ所・既にある所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
「既」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg

*註3:坩堝
原本には「坩鍋」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註4:明けがたの空
「空」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sora.jpg

※注5:心の栓
「栓」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen2.jpg

*註6:溢れ
「溢」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ahureru.jpg

※注7:状態
「状」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou.jpg

※注8:此の種の説
「説」の旧字体。「言」+「兌」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

(2014/07/07/初校)




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