契約の龍(27)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/20 01:30:33
深夜、俺たちは亡くなったハース大公の棺を取り囲んでいた。俺たち、というのは、俺、クリス、学長、それにジリアン大公、の4人だ。今夜も寝ずの番をする、と主張する未亡人と、仕事で張り付いている魔法使いには、早朝になったら交替してほしい、と説得してお引き取り願った。
「「金瞳」から力を引き出すやり方、を実演して見せればよろしいのね?」
「はい。お願いできますでしょうか?」
「お安いご用ですわ、と言いたいのだけど……何年ぶりになるかしらねぇ…自分でやるよりも、上手にできる人に頼ったほうが確実だったから、ねえ?」
と学長に微笑みかける。
「そうでしたよねぇ…卒業の時、「金輪際、一人で魔法は使わないように」と周りじゅうから言われてたのは、私の知る限り、あなた一人ですからねぇ…でもまあ、今日は一人ではないし、大したことをやってくれ、とお願いしているわけではありませんので」
…本当に、大丈夫なんだろうか?不安になってきた。
大公が掌に「金瞳」を出現させる。軽く開いた両手を胸の前で向かい合わせる。「集中」の基本動作だ。やがて、「金瞳」が活性化し、力の源へと見えないラインを伸ばしていくのが感じられる、のだが……
「…だめだわ。届かない。…どうも、「閉ざしている」ような感じがするわ」
「手応えはある、ということでしょうか?」
「そうねえ…例えるとすると…「居留守」を使っているような感じ、かしらね」
「…クリス?わかったかな?」
「んー…と……大公、申し訳ありませんが、そちらの手をお貸しいただけますか?」
そう言ってクリスが「金瞳」の現れた大公の右手を取る。
「この状態で、もう一度やってみていただけませんか?追ってみます」
「追うって…あなた…」
「クリスなら、大丈夫ですよ。もう一度お願いします。…アレク、サポートは任せた」
そう言われたので、クリスの斜め後ろに位置どる。大公があっけにとられたような顔をし、再度集中に入る。
大公の「金瞳」から伸びたラインを追って、クリスが意識を展ばす。希薄になった意識が支え切れなくなった体を支えつつ、体と意識が途切れないように支持するのが、「サポート」の役割だ。
大公が見切りをつけて戻ってくるまでの時間は、さっきよりは長かった。
「…あの馬鹿龍」
一呼吸遅れて戻ってきたクリスが、小声で毒づくのが聞こえた。
ふと見ると顔色が悪い。
「何があった?」
「何が何だか分からない…強い「力」があるのは感じたけど…ひどく荒れ狂っているような感じだった。あそこから「力」を汲み出すのは、難しいと思う」
そう言うと、こちらにもたれかかって、こめかみを押さえる。
「手を退こうとしたら、「龍」が追いすがってきましたの。振り切るのが大変で…私一人では振り切れなかったかもしれません。…あんな事は、はじめてでしたわ」
大公が硬い声でそう言うのが聞こえる。
追いすがってきた?
「先ほどは「閉ざしている」と感じられたようですが…」
学長の声も緊張を帯びている。
「ええ。…感触も、さっきとは違ってましたわ。なんていうか…ふわふわ…まとわりつくような。わたくしが非力なせいか、いつもそっけない感じがするので、先ほどの感触は、まあなじみ深いものなのですけど…」
「この子と一緒のときは、いつもと違った?」
「…ええ、そうですわね…いえ、最初はいつも通りだったのが、この子の存在に気付いて興味を示した、という感じでしたわ」
「…私だけならまだしも、大公にまで手を伸ばし始めたから…どれだけ飢えてるんだ?あの馬鹿龍は」
低い声でつぶやく声が聞こえる。
ふと気付くとクリスの体が冷たい。
「…クリス?大丈夫か?」
「…………あまり…」