Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(27)

 深夜、俺たちは亡くなったハース大公の棺を取り囲んでいた。俺たち、というのは、俺、クリス、学長、それにジリアン大公、の4人だ。今夜も寝ずの番をする、と主張する未亡人と、仕事で張り付いている魔法使いには、早朝になったら交替してほしい、と説得してお引き取り願った。
 「「金瞳」から力を引き出すやり方、を実演して見せればよろしいのね?」
 「はい。お願いできますでしょうか?」
 「お安いご用ですわ、と言いたいのだけど……何年ぶりになるかしらねぇ…自分でやるよりも、上手にできる人に頼ったほうが確実だったから、ねえ?」
 と学長に微笑みかける。
 「そうでしたよねぇ…卒業の時、「金輪際、一人で魔法は使わないように」と周りじゅうから言われてたのは、私の知る限り、あなた一人ですからねぇ…でもまあ、今日は一人ではないし、大したことをやってくれ、とお願いしているわけではありませんので」
 …本当に、大丈夫なんだろうか?不安になってきた。
 大公が掌に「金瞳」を出現させる。軽く開いた両手を胸の前で向かい合わせる。「集中」の基本動作だ。やがて、「金瞳」が活性化し、力の源へと見えないラインを伸ばしていくのが感じられる、のだが……
 「…だめだわ。届かない。…どうも、「閉ざしている」ような感じがするわ」
 「手応えはある、ということでしょうか?」
 「そうねえ…例えるとすると…「居留守」を使っているような感じ、かしらね」
 「…クリス?わかったかな?」
 「んー…と……大公、申し訳ありませんが、そちらの手をお貸しいただけますか?」
 そう言ってクリスが「金瞳」の現れた大公の右手を取る。
 「この状態で、もう一度やってみていただけませんか?追ってみます」
 「追うって…あなた…」
 「クリスなら、大丈夫ですよ。もう一度お願いします。…アレク、サポートは任せた」
 そう言われたので、クリスの斜め後ろに位置どる。大公があっけにとられたような顔をし、再度集中に入る。
 大公の「金瞳」から伸びたラインを追って、クリスが意識を展ばす。希薄になった意識が支え切れなくなった体を支えつつ、体と意識が途切れないように支持するのが、「サポート」の役割だ。
 大公が見切りをつけて戻ってくるまでの時間は、さっきよりは長かった。
 「…あの馬鹿龍」
 一呼吸遅れて戻ってきたクリスが、小声で毒づくのが聞こえた。
 ふと見ると顔色が悪い。
 「何があった?」
 「何が何だか分からない…強い「力」があるのは感じたけど…ひどく荒れ狂っているような感じだった。あそこから「力」を汲み出すのは、難しいと思う」
 そう言うと、こちらにもたれかかって、こめかみを押さえる。
 「手を退こうとしたら、「龍」が追いすがってきましたの。振り切るのが大変で…私一人では振り切れなかったかもしれません。…あんな事は、はじめてでしたわ」
 大公が硬い声でそう言うのが聞こえる。
 追いすがってきた?
 「先ほどは「閉ざしている」と感じられたようですが…」
 学長の声も緊張を帯びている。
 「ええ。…感触も、さっきとは違ってましたわ。なんていうか…ふわふわ…まとわりつくような。わたくしが非力なせいか、いつもそっけない感じがするので、先ほどの感触は、まあなじみ深いものなのですけど…」
 「この子と一緒のときは、いつもと違った?」
 「…ええ、そうですわね…いえ、最初はいつも通りだったのが、この子の存在に気付いて興味を示した、という感じでしたわ」
 「…私だけならまだしも、大公にまで手を伸ばし始めたから…どれだけ飢えてるんだ?あの馬鹿龍は」
 低い声でつぶやく声が聞こえる。
 ふと気付くとクリスの体が冷たい。
 「…クリス?大丈夫か?」
 「…………あまり…」

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