Nicotto Town


キラキラ集め報告所


フェイトブレイカー! 第一章7

『賢者の国』イルミナ。
その王城に向かって何人かの衛兵達が、一人の男を取り囲んで進んでいる。
中心にいるのはもちろんアロウ。
衛兵達は着かず離れずの距離を取りつつ、それでもいざという時のために、
アロウの周りを取り囲みながら、わざわざ街中の目立つ大通りを進んでいく。
「…噂ってのはアッという間に広まるものだな」
そう呟き耳を済ませてみると、町中の人たちがアロウを見るなり、
ヒソヒソとした声で、昨夜の出来事を話し合っていた。
ただ、「王女様に乱暴を働いた」と言う声には、
何度も『違う』と怒鳴りたい気持ちを抑え切れずにいた。
「…気になるかい?」
真横を歩いている衛兵の一人が、アロウを気遣うように声をかけた。
アロウは黙ったまま、前を見据えるだけだった。
そんな彼を余所に、衛兵は話を続けた。
「ま。余所者のアンタにゃ辛いだろうが、自分のした事を正直に話すんだ」
そう言っている間も一行は王城へと近づいている。
「我らが王、リヒト様は寛大なお方だ。余程の事がなきゃ罪には問われんだろうな」
そして、別の衛兵がアロウに尋ねた。
「なぁ。お前さん、翼生やして飛べるんだろ?何故そうしない?」
「…君らがそう出来ない様にしてるし、『人前で見せるな』と師にきつく言いつけられた」
アロウにとって、衛兵の槍の陣形を崩して逃げ去ることは容易い。
だが、それは翼を生やしての芸当だし、
第一、師の教えを破る事は彼には考えつかない事だ。
「なるほどねぇ。じゃあ何故昨日はあんな事を?」
「…夜だったし、気分も良かったから-」
「お前達、つまらぬ詮索は止せ」
先頭を歩いている、年長者らしき男が一行に注意を促す。
「我等は我等の務めを果たすまで。余計な事は無用だ」
「「り、了解!隊長」」
アロウに話しかけた衛兵達がそう言って口を閉ざした後、一行は王城の前に辿り着いた。


イルミナの王城は、“八円城”とも呼ばれている。
その名の通り、八つの尖塔がそびえたち、その内側に王城や近衛兵団の宿舎など、
様々な建物が佇んでいる。
城へ続く道は、その周りを囲んでいる水堀を渡る為の南側の跳ね橋。
そこを渡り、噴水のある広場を通り抜けた先にある。
アロウは、跳ね橋を渡る前に衛兵達から城を守る騎士達に引き渡され、
今度は彼等に続くように城の中へと入っていった。
城内は、要所で直立不動で守っている鎧姿の騎士達や、
逆にせわしなく動く給士や執事達。
廊下に飾られた絵画や彫像などに目が移るが、
それに見とれる暇なく、アロウは先へ先へと行かされた。
「この先が謁見の間だ」
やがて騎士達が足を止めた先には大きな扉がある。

そこには二人の男性が立っていた。
「ご苦労」
その内の一人、白地に金十字の外套を纏った中年の男が騎士達に声をかけた。
その言葉に騎士達は、アロウを残して去っていった。
「…『秩序と法の神ロウエルよ。我に邪悪を看過する目を』」
中年の男はアロウに《邪悪感知》の呪文を唱えた。
「?」
「…やはり何も感じないか」
小首を傾げるアロウに、彼は安堵の溜息をついた。
しかし、今度はもう片方の-ライブラと同じぐらいの歳らしい男性が、
《魔法の縄》の呪文を唱えた。
「!?」
すると、アロウの身体に見えない縄が胴に絡みつき、両腕の自由が利かなくなった。
「ジェ…【ジェイド】大臣!何もそこまでしなくても-」
「本来なら《刃の網》や《電撃網》にするところだがな」
【ジェイド】と呼ばれた、翡翠色のローブに身を包んだ男は、
眉間にしわを寄せ、こめかみをひくつかせながらアロウを睨みつけた。
「王城に忍び込み狼藉を働いた輩だ。これでも手ぬるい位だ」
「…刑を命じるのは父上ですから、余計な事はしないでください」
という相方の言葉に、【ジェイド】はフンと鼻を鳴らす。
「では-」
白外套の中年が、謁見の間の扉を開いた。




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