Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(23)

 エレオノーラ・ジリアン・ゲオルギア・エスタシアス。
 ジリアン大公と呼ばれるこの女性は、五人の王族を産んだが、一人は幼少の頃、残りもここ数年の間に、すべて亡くしている。ここに来る前、とり急ぎ目を通してきた「王室名鑑」にはそう記されている。
 ホールを入ってきた彼女の顔に、憔悴の色が濃いのは、その心痛のためか、あるいは長旅のせいか。
 何気なくホールを見回した彼女の目が、こちらにとまった。むろん、知人である学長に目を留めたのだろう。お付きの者に合図して、こちらに足を向けるので、学長が迎えに行く。
 「ジリアン殿下、お久しぶりにございます」
 「ケルヴィン先生、お久しゅう。その子たちは?」
 「私の生徒たちです。こちらは六年前から、こちらはこの春から預かってます」
 「この春から…というと…アウレリスの?…そう、この子が」
 どうやら王族の面々には話が通っているようだ。
 ジリアン殿下はクリスに向かって微笑みかけた。
 「はじめまして。こんな機会で会うことになったのは残念だけど、よろしく」
 「あ…はい。殿下もご健勝であらせられますよう」
 「陛下にこんなに大きな子供がいたのだったら、わたくし、無理にこどもを産まなくてもよかったわね」
 「…はい?」
 「マルグレーテが、流産がもとで子供が持てなくなって、フィンレイがあんなことになって、…このままでは王位を継ぐ子がいなくなってしまう、って思ったのよね。夫にもこどもたちにも、止められたのだけれど…」
 「…殿下…」
 クリスがちょっと困った顔をする。
 この女性に、王位なんていらないと思っているんです、などとはとても言えない。
 「早く「龍」が応えてくれるようになるといいわね」
 立ち去るジリアン大公の後ろ姿を見送りながら、クリスがつぶやいた。
 「…この、「金瞳」がなくなってほしい、と私が望むのは、悪い事なんだろうか……?」
 「人が、何か望みを持つ事が、良い事だとか、悪い事だとか…誰にも決められんよ。たとえそれが、どんなに自分勝手な望みであったとしてもね」
 学長がクリスの肩にそっと手をおいて、そう言った。
 そんな考えを持った人だとは、思いもしなかった。
 「学長……人を導く立場にある方のお言葉とは思えませんが」
 「そうかね?…たとえ、叶えることができない、と解っていても、持ってしまうのが、望みというものじゃないのかな?」
 叶えることができない、と判っている望み……
 クリスの存在が強く意識される。
 手をのばせば、届くところにいるのに、手に入れることを望んではいけない少女。
 「…学長にも、そんな望みが?」
 「はは……人間、長くやってると、色々あるから。私は欲が深いものでね」

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