フェイトブレイカー! 第一章5
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/07 12:32:50
『賢者の国』であり、首都でもあるイルミナ。
その夜空を、アロウは優雅に飛んでいる。
「改めて見ると華やかな町だな」
ある程度の高度を保った後、アロウは静止して町を文字通り上から見下ろした。
まず目に留まったのは、この町は大河を跨いで構成されている事だ。
「…」
そして上から見て河の西側は王城を中心に放射状に路地が広がっている。
そこで目立つのは例の三角塔-賢者の学院の他、秩序・戦・そして知神の神殿だ。
こちらはあまり灯が燈ってない。
精々王城の尖塔の見張り台と、それぞれの神殿とかから見える松明の炎が見えるだけ。
後は路地のあちこちに魔法の灯を見かけるぐらいだ。
「広くの部分を占めているようだが…些か寂しく感じるな」
無理もない。今は夜。
ごく普通の暮らしを営むものにとっては、もう眠っている時間なのだから。
「…逆にあちらは賑やかそうだな」
川の上流側に二つ橋が架かっているのを見てから東側に目を移すと、
幸運・慈愛・商売神の神殿。
そして上流側、幸運神殿の周りにあるスラム街と、
港寄りの商売神殿の周りにある屋敷の数々とが印象に残った。
どちらも魔法によるものだろう-色とりどりの灯が輝いている。
耳を澄ませば、人々の声が聞こえてきそうだ。
「つまり夜が彼らの生活の時間という訳か」
自分も同類だが、と心の中で一つ付け加えてアロウは呟いた。
そして北側の城壁を超えた先にある共同墓地。
逆に町の南を占める港。
-そして、町の北西辺りの外れにあるのがアロウの館だ。
「…」
夜風に吹かれ、心地よさを満喫したアロウは自分の館へ帰ろうと、
王城を横切ったその時。
天守閣の一角にあるバルコニーに二人の人物が姿を現した。
アロウは思わずそれに興味を示し、そこに降り立った。
「ローゼ様、またですか?もうお休みにならないと…」
「ごめんなさい、婆や。何だか今日は眠くならないの」
ランプを携え、色あせたローブを纏った老婆に対し、
シンプルながらも上品な出来の寝巻き姿の少女が、
微笑みと共に、鈴のような美声でそう答えた。
「…全く、病を患ってる訳でもなかろうに」
「だって退屈ですもの。ここでの暮らしは」
美しいと言うよりは、歳相応の可愛らしい顔立ち。
手入れの届いた長い金髪に、サファイアのような青い瞳の少女は、
バルコニーの手すりに両肘で頬杖をして溜息をついた。
「…何故私は王族の一人として生まれたのかしら?」
「ローゼ様!またそのような戯言を-!?」
老婆が彼女-ローゼに叱責しかけたその時。
バルコニーに黒い貴族風の衣装を纏った人物が舞い降りた。
「何奴!?」
「驚かせてすみません。ついそちらに気を取られて」
ランプを向けた老婆に対し、アロウは翼を収めつつ一礼した。
「私はアロウ。訳あってここに滞在している者です」
「まぁ…。もしかして、貴方があの幽霊屋敷の主?」
ローゼは驚きに目を丸くしつつも、落ち着いた口調でアロウに声をかけた。
「ええ、その通りで---!?」
アロウが頭を上げて、ローゼの姿を見た瞬間。
彼の鼓動は早くなり、体中の血の流れが加速する。
瞬く間に全身は汗だくになり、口の中が乾いていく。
「うっ…ぐぐぐぐぐぐ」
そう。“吸血衝動”である。
それも、今までの中で最も強烈な。
「?どうかされたのですか」
急にうずくまったアロウを見て、ローゼが声をかける。
その間にも、彼は壮絶な葛藤に苛まれていた。
はっきりした声と共に。
アノコノ、チガ、ホシイ。
老婆が何か呪文を唱えた直後、回りは静寂に包まれる。
その直後にアロウは雄叫びを上げ-それはかき消されたが-、
マントから鎌を取り出し、すぐさまそれを振り下ろした。
その先は-己の左大腿部だった。
あまりの出来事にショックを受けたローゼがアロウに駆け寄ろうとするが、
老婆がそれを制して、屋内へ行くよう促す。
(…よし、取り戻せたぞ)
と、呟いた言葉がかき消えた事にアロウは違和感を覚えた。
顔を上げると老婆が、彼にも屋内に入るよう仕草で促している。
アロウは一息ついて鎌を収めると、屋内へと踏み入れた。
続き読みたい^^
めっちゃ読みたい^^v