■近代文藝之研究|時評|今の文壇と…(4)
- カテゴリ:その他
- 2011/10/03 23:52:55
■近代文藝之研究|時評|今の文壇と新自然主義 (4)
而して是等はみなそれみづからにして一流を成すの藝術である。斯くの如くならぬものに比して孰れが高級であるかといふが如きは、吾人のこゝで論定せんとする問題では無い。
併しながら技巧主義はまた一面に於いて情緒主義と聯なる。單に脚色の技巧、文章の技巧を技巧そのものに行き止まらすれば、純粹なる技巧主義となるが、一歩を踏み入れて、之れを強い情緒の發相と見れば、情緒主義と化するであらう。盖し事象を結撰するに先だち、落想の一面として存する感情が濃厚の性を帶びて、情緒揺曳おのづから作者の胸底に香を放ち調を成すやうに思はれる場合には、此の強い情緒の必然の要求として、事象の上に變形を來つぁさゞるを得ぬ。現實にあるまいと見える事象が此の要求の爲に是認せられて成立する。情緒のために事象が犠牲となる。見樣によつては是れも一種の技巧作爲であるが、價値の最高判斷を技巧に仰がずして情緒に仰ぐの故を以て脚色上の情緒主義となる。
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*註1:而して是等は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:併しながら
「併」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shikashi.jpg
*註3:技巧
「技」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/waza_gi.jpg
*註4:情緒・感情
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg
*註5:強い
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。
*註6:結撰
「撰」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen_erabu2.jpg
*註7:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註8:調を成す
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg
*註9:要求
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註10:是認
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg
*註11:判斷
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
僕は単純に書写入力しているだけなので、正確なところはわかりませんが、
たぶん、文章に思い入れたっぷりの、あふれんばかりの感情を投入したものを
情緒主義といっているのではないかと思います。
「自分の文に酔うように書く」という言い方がありますが、
過剰なる感情にまかせて文章を記述しているうちに、
どんどん表現が大袈裟になっていくような……。
その表現が大袈裟になるところには、当然、文章上の技巧も加わります。
たとえば「泣く」という一言を、「滂沱の涙を流した」と記述しますと、
たんなる「泣く」が、かなりオクターブの高い「泣く」ニュアンスとなります。
と同時に、「滂沱の涙」という文章技巧上の装飾も加わることになります。
「技巧主義はまた一面に於いて情緒主義と聯なる」というのは、
そういうことではないかと思います。
そして「情緒のために事象が犠牲となる」というのは、
「泣く」の一事を「滂沱の涙を流した」というふうに表現しだすと、
記述のあちこちで情緒・技巧の過剰さが加速されて、
どんどん事象(事実・真実)から遠ざかるという落とし穴の危険がある、
というふうに僕は入力しながら、ぼんやり考えていましたが、
果たしてそれが正しい解釈なのかどうかは、まったく自信はありません、デス。(^_^;
芸術……あまり面と向かって考えたこともありませんが、
時間の消耗、鑑賞の消耗に屹然と耐え、
いつも新鮮な驚きや感動や発見や勇気や示唆や、
その他もろもろの人生の輝きと深みを与えてくれるもの、という感じでしょうか。
輝きや深みのない人間がいっても、ちょっと説得力ないですね。(^_^;;;
知人の画家の人がいいますのに芸術は飾っておくものではなくて、直しておいてたまにこっそりみて
くすくす笑ったり、感動したりするのが芸術だっておっしゃってましたが・・・・・ ある意味あたっていると
思うのですが・・・・