Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(20)

 講義が終盤に近づくと、各科目の考課基準が発表されはじめる。
 試験やレポートが主だが、中には長い休みを利用しての課題達成が課されるものもある。「幻獣捕捉学実習」などはその代表だ。
 そして、なぜかクリスもこの科目を取っていた。

 「なんで今更、改めてこの科目を?」
 「知らない。ガイダンスに従っただけだから」
 確かにこの科目は、全生徒必修で――ただし、取得できなくても、卒業に支障はない――、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ…と半期ごとに段階が上がっていくことになっている。だが、特例として、親から幻獣を継承している者は、この科目は免除されていたはずだが…
 「教務の方に申請を出してなかったのか?…その、「証」のを」
 「しんせい?」
 「履修届に書いてあっただろう?「幻獣を継承している者は、その旨記入すること」って」
 「幻獣の種類が判らなかったからな」
 「………なるほど。仕方がない、落とすしかないな」
 「どうして。ポチを提出すればいいじゃないか」
 「あれは、クリスが自分で捕まえたわけじゃないだろうが。ズルはダメ」
 「…小妖精を何かに封じるくらい、できると思うんだけどな。これに邪魔されなきゃ」
 クリスにその実力がない、とは思わないが、現時点では好成績が得られそうな幻獣が近づいてきたら、「金瞳」に食われてしまう。
 まあ、頑張ってください、としか言えない。
 長期休暇を前に、遠くまで帰る者、休暇を避暑地で送る者、たちは早々と支度にかかっていて、寮の中は全体的に浮足立った雰囲気に包まれている。
 「で、その課題は、どこで片づけるつもり?実家の方?それとも、父上のところ?それとも他に当てが?」
 辺りがざわついているとはいえ、他人の耳目があるから、王室関連の単語は、なんとなく遠まわしになってしまう。
 「条件ではうちが一番いいんだけど…遠いからなあ。普通に行ったら、往復だけで休みが終わっちゃう」
 「…国内でそんなとこがあるなんて、知らなかったぞ?」
 「途中にとんでもない山越えがあるからね。山を迂回するルートもあるんだけど、それだとよその国を通らないとならない。こことはあんまり友好的ではないとかで、出入りをそれはそれは厳しく調べられる、って。祖父の見舞いに来た大伯父が恩着せがましく言ってた」
 「…なるほど、あそこか」
 思い当たる地域があった。三十年ほど前、独立を宣言した大公国だ。「金瞳」を失い、公爵に格下げになったのが、四代か五代前。その前後から、隣国の王族と誼を通じており、その支援を受けて独立、というのが教科書的な見方だ。実際はどうだか知らないが。
 「そりゃ、大変だな。……普通に行ったら、って事は、普通じゃない行き方もあるってことだろうが、普通でない行き方については、訊かないでおく」
 「…興味がないのかな?それとも長くなりそうなので面倒だと思ってるのかな?」
 「…どっちもだ」
 「父上のところはねぇ…あの大食い馬鹿龍の本拠地だから、あまり期待できないんだよね…」
 形容語が増えてるし。
 「ほかにもいろいろと面倒だし。…でも、叔父様に、面会できるなら、行ってもいいかなって思う」
 叔父様って言うと…
 「あの、眠れる王子様に?」
 「うん……いろんなことが、あの人の事故を境に起きてるな、って。あの事故以前、「証」のある親戚は、もっとたくさんいたんだよね?」
 「たくさん、というほどではないが。でも…偶然じゃないか?」
 「…そうかなあ…誰もお見舞いできない、っていうのも、何か怪しい」
 「怪しいって……」
 考えすぎじゃないのか?
 …だが…
 「クリスの言うのは、人為的なものな感じがするってことか?」
 「人為的?……例えば、実は大公(おじさま)は亡くなっているのに、生きているように装っている、とか?」
 「クリスの存在を計算に入れなければ、あり得ない話では、ない。国王(とうしゅ)夫妻には子供がないし、ほかに「金瞳」(あかし)を持っている人たちは、高齢だ」
 「……それは、困る。とっても、困る」
 今までそこに思い至らなかったのだろうか。
 「そうだね。とっても困った事態だ。…もしそうだとしたら、クリスは、どうする?」
 「…考えたくない。私は、ゲオルギアの者になんか、なりたくない。大公には、死んでも、生き返ってもらう」
 「クリス、その表現はなんだか変だよ「死んでも生き返ってもらう」って」
 笑い飛ばそうとして、何かが腑に落ちた。

#日記広場:自作小説

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2009/05/16 03:01
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