フェイトブレイカー! 第一章2
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/01 15:13:41
賢者の学院。
確か師匠はこの三つの塔をそう言っていた事がある。
ようやく目的地に辿り着いたアロウは、感慨深げにその塔を見上げていた。
目測から15階建てくらいのその塔は、
町中で見かけた王城や神殿などよりも存在感を放っている。
やがてアロウは意を決し、一番近い塔の入り口へと足を運んだ。
先程の町でのやりとりとは逆に、入り口の番人たちはすんなりと通し、
-それでも背中の棺桶は怪しまれはしたが-
ある一室へと連れて行かれた。
恐らく、来客用の部屋だろう。
座り心地のよさそうなソファーに、面が広く高さの低い、品のよい作りの机。
そして部屋の片隅には、大理石らしい長い髭に三角帽子の老人の胸像。
その隣には、恐らくこの町の全体図であろう、大きな絵が張られている。
アロウが棺桶を下ろし、連れて来た黒犬-名はハウル-を座らせ、
自分もソファーに腰掛けて数刻後。
群青色のローブに身を包んだ人物が部屋に入ってきた。
「…これは驚いた。あのフェムトの弟子が君みたいな若者で」
見たところ50代ぐらいの齢の男は、アロウを一目見てそう言った後、
「まずは自己紹介だな。私がライブラだ。人は【調停者】とも呼ぶがな」
ライブラと名乗った男は、アロウの真正面に腰を下ろす。
「では、君は一体何者なのかね。そしてどんな用事なのか教えてくれないか?」
「私はアロウ。貴方に会ったらこれを渡せと…」
アロウは立ち上がった後、広げたマントの中から一冊の日記帳を取り出した。
「待て!今、何をしたのだ!?」
ライブラはそれを目ざとく指摘した。
「荷物を取り出しただけですが…」
「少し待ちたまえ」
キョトンとしたアロウに対し、ライブラは眉をしかめて呪文をいくつか唱えた。
「…何という事だ。魔法の品を作る術は失われてるはず…」
「一体何のことです?」
「…まずはそのマントだ。それはある程度の大きさの物を収容できる魔力を感じる」
「ああ。これは私が作ったんです。師匠の書物を参考にして」
(…彼の言葉に嘘はない。信じられんが)
ライブラが唱えた呪文の一つ、《嘘発見》が反応しない事に動揺しつつも、
「…では、君の荷物を全部見せてくれないかね」
と促した。
「あ、はい」
アロウは次々とマントの中から荷物を取り出した。
黒曜石の大鎌、等身大のパペット。
数々の書物、液体の入った小瓶から保存食や宝石、タロットカードなど。
たちまち机はアロウの荷物で一杯になった。
その様子に、ライブラはただ言葉を失うばかりだった。
「…あの。まずはそれを見ていただきたいんですが」
アロウはそんな彼を余所に、師匠がまとめた日記を読むよう促す。
「あ、ああ。そうだったな」
ライブラは、まるで未知の書物でも読むような気分で表紙をめくりだした-。
「…信じられない。だが、今起こってる出来事は全て現実なのだ」
日記を読み終えたライブラの声は心なしか震えていた。
「そして、君はその“満月の王”という吸血鬼の事を知る為にここへ来た訳だな」
「はい」
「…残念ながら、今すぐには答えられない」
ライブラは無念そうに首を振りつつも言葉を続ける。
「第一、吸血鬼は普通、子を作ることはできない。否、しない。
生者の血を啜って偽りの不死を生き続ける。そんな存在なのだ」
そこでライブラは一度言葉を切って、アロウの反応を窺う。
アロウはただ黙って話が続くのを待っていた。
「…だが、この日記通りなら、君はいわば吸血鬼と人間とのハーフなのだよ。
人でありながら吸血鬼の力を持つ存在。
それならば、この事実も頷ける」
机の上の大鎌-やはり魔法の品である-に目を移してライブラは更に続ける。
「-そして。
君を悩ませる“吸血衝動”も、吸血鬼の血を引く故に生じるもの。
その“満月の王”を倒さない限り克服する事はできないだろう」
「それは師匠の最期の言葉でもありました」
「…フェムト、だな。惜しい者を亡くしたものだ」
故人を偲ぶ表情で、ライブラはそう言った。
「君の師匠フェムトは、私の知ってる中でも屈指の実力者だった。
導師と名乗れるようになってからも、冒険者の人生を歩み続けていた。
『魔導帝国』時代の謎に少しでも近づきたい。それが口癖だった」
ライブラはそこで遠い目で話を続ける。
「その中に、魔法の品を作り出すという夢があった。
…しかし、いつしか起こりだした導師達の派閥争いに嫌気が差して、
彼は静かにここを去った-」
そこでライブラは、再びアロウに目を合わせて、
「まさか皮肉にも弟子がその悲願を達成するとはな」
「師匠や貴方が驚いていたのは、そう言う事なんですね」
アロウの言葉にライブラは深く頷いた。
そして。
「率直に言おう、アロウ。
本来なら滞在を許さない所だが、君が人間になりたいと願っている以上、
それを拒むわけにはいかない。
だが、もし吸血鬼絡みの事件が起こったら、その時は協力する。良いな?」
「はい」
ライブラの言葉に、アロウは力強く頷いた。
おもしろいなぁ
読んでるだけなのに目の前に状況が見えるみたい
ホントだよ^^
これから先がたのしみぃo(*⌒―⌒*)oにこっ♪