フェイトブレイカー! 第一章1
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/01 12:16:32
爽やかな秋風が辺りを吹き通った。
“賢者の国”とも呼ばれるイルミナへと向かう隊商の者達にとって、
その風は、歩き通しの一行にとって一服の清涼剤でもあった。
そんな中、最後尾を歩く一人の少年が問うた。
「誰か教えてくれ。あとどれぐらいでイルミナに着く?」
「…そうだな。あと数時間もすれば着くだろうな」
身近に居た一人の男が胡散臭げにその少年を横目で見つつも、そう答えた。
黒い礼服姿の少年は一礼した後、道の先にある目的地へ目を向ける。
周りを囲む壁以上に、恐らく城らしき建物と、
それよりもはるかに高い三つの塔とが印象的だ。
「…」
「なぁ。あんた、アロウと言ったな?一体あそこに何の様だ?」
先程、返答した男が少年-アロウ-に再び声を掛けた。
「…師匠の遺言だ。『イルミナへ行け』と」
「そうか…悪い事聞いちまったな」
「構わん」
バツが悪そうに頭を掻く男に、アロウは静かに答える。
「…それはそうと。その棺桶、何とかできねぇのか?」
「できない。これは私の大切な物だ」
「…それじゃ、町に入るときに相当怪しまれるぞ」
「仕方ない。これ程の大きさの物はマントに入らなかったのだから」
しつこく問う男に若干うんざりしつつも、アロウは淡々と応対する。
「マントに…入らない?」
アロウの言葉の最後に疑問を感じた男がそう問うのを余所に、
アロウは傍らを歩く黒犬に、もう少しだと呼びかけていた。
小首を傾げる男を余所に、隊商はイルミナへと近づいていった。-
数時間後。
案の定、イルミナに到着したその隊商は、町の入り口で門番に捉まった。
言うまでもなくアロウが原因である。
「お前は冒険者らしくないな?かといって貴族とも思えない」
長槍に硬革鎧姿の門番の一人がアロウに問い詰める。
「私はこの中の-三つの塔の中に用がある。それだけだが」
早く町に入りたい隊商を余所に、アロウは冷たく言い放つ。
「ならその棺桶の中を見せてもらおうか?」
高圧的な態度の門番に苛立ちを感じつつも、アロウは素直に棺桶を下ろした。
「…む、な、何だ?一向に…開かないぞ!」
「ああ。『鍵』をかけていたからな。…『開け』」
それまで力任せに棺桶の蓋を開けようとしていた門番は、
アロウの合言葉ですんなり開いてしまい、勢い余って後ろに倒れ転んだ。
その様子に、その場に居た者達からあちこちで含み笑いがもれる。
門番は周りを睨みつけながら立ち上がり、棺桶の中を覗き込んだ。
「…土?」
門番は周りの仲間を呼び集め、アロウの周りを取り囲んだ。
「貴様…まさか、吸血鬼なのか?!」
その言葉に周りの空気が凍りついたが、
「もしそうなら、私はこうして日の下を歩いてないだろう」
というアロウの言葉で、再び賑やかさを取り戻した。
「…これでも通さないと言うのか?」
アロウは溜息混じりにマントの中に手を入れて、封の施された手紙を差し出した。
「差出人の名はフェムト?…宛名は…ライブラ!?あのライブラ導師なのか!?」
「私は彼に会うために来たのだ」
「こ、これは失礼致しました!」
先程の高圧的な態度から一転して、手紙を返す門番を見て、
アロウは溜息交じりに苦笑した。
ようやく町の中に入れた後、
「いやぁ。先程は冷や冷やしましたよぉ」
隊商の主である恰幅のよい体格の商人が、アロウに話しかけてきた。
「まさか貴方がライブラ導師のお知り合いとは…」
「知り合い?まだ会ってないのだが?」
アロウがそう言うと、商人は驚いた。
「何と!?ライブラ導師をご存知でないと?」
「…私は生まれてから塔を出たことはない」
「では何故こちらに向かったのです?」
「師匠の残した地図のお陰だ」
そう。
アロウがこうしてイルミナに辿り着けたのは、
師匠フェムトが日記と紹介状の他に、イルミナへの地図を残したからだ。
塔を離れた後は単身だったが、街道へ出たところ、
偶然、そこを進んでいた隊商に出会ったのだ。
そして、この気の良い商人は、風変わりな衣装を身に包んだ少年を、
イルミナへ向かっているという彼を快く引き連れてくれたのだ。
そして、逆にアロウが商人に尋ねた。
「ライブラ導師とは何者なのだ?」
「イルミナで名前を知らない人はいない程の有名人。大魔術師ですよ、貴方」
アロウの問いに、商人は目を白黒させながらもそう答えた。
「…わかった。感謝する。それでは」
アロウは軽く会釈し、黒犬と共に三つの塔へと歩き出した。
商人はアロウにもっと色々な事を聞きたがったが、
護衛した戦士たちからの不満の声に、踵を返さざるを得なかった。
これからも読みますね