Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(18)

 まる三日かけて文献を当たったが、ユーサーの龍がどんな種族に当たるものなのか、を記述した物は、一つも無かった。その外見さえ、明らかにされていない。
 大体ユーサーの記録には、二十代の後半に何年か――文献によって、一年から最大十二年――の空白期間があって、龍についての記述はその空白期間の後、突然出てくるのだ。
 「おかしいなあ……本当に、ひとっつも無い」
 「あとは、あるとしたら、王室の歴史編纂所、あたりだろうな。でも、あそこは一介の学生が入れるようなとこじゃないし、入れたとしても、資料の数が莫大だそうだし」
 歴史編纂所は文書館も兼ねているので、ありとあらゆる公文書が集められていて、カオスの様相を呈している、……らしい。
 「仕方が無い。見た目が判らないのなら、業績から推測するしかないな」
 「…まあ、そうするしかないな。ところでクリス」
 「…なんだ?」
 「なんで俺は三日もこの調べ物に付き合わされてるんだろうな?」
 中空を見つめてしばし考え込むクリス。
 「………さあ?」
 そして、まばたきを一つして、こちらの方を覗き込んで言う。
 「もし迷惑だ、というなら、私一人でやるから、他へ行っても構わないぞ」
 軽く天を仰ぐ。
 「クリス一人に任せておいたら、いつまでたっても調べ物が終わらないんじゃないか、と思うんだが」
 「…なんだか、ひどく馬鹿にされているような気がする」
 「馬鹿にしているわけじゃあないが…どうやら、あなたには土台となる知識が、決定的に欠けているらしい。だから、調査にひどく無駄が多い」
 「…悪かったな」
 「だから、今日は一日かけて、王国史をさらおうと思う。少なくとも俺はあなたよりは王国史に詳しい、はずだ」
 何しろクリスは、実際に対面するまで、現国王の名前さえ――自分の親だというにもかかわらず――知らなかったらしいから。
 ナイジェルが言っていた、「バランスが悪い」というのは、こんなところにも表れている。「伝説の天才」は、いったい彼女にどんな教育を施したのやら。

 「うぅー……固有名詞が頭からこぼれおちるぅー……」
 普通の学生が、十年以上かけて頭に入れる量の固有名詞を、一日で覚えようとするんだから、無理もないだろう。
 「まあ、だいたいこれくらいの所を押えとけば、王立大学の入学資格試験に引っ掛かる、くらいはできるかな」
 「…そんなもの、目指してない……」
 「目指す必要も、ないしね。とはいえ、街なかで開業するなら、周辺諸国との関連は頭に入れとくべきだ、というので、近・現代史の範囲はここでも教えてるけど……取ってないだろう?」
 「必要だと思ってなかったから…」
 「まあ、取ってても間に合ってないけどな。…ちゃんと理解はできたか?」
 「明日まで覚えていられたら、たぶん」
 自信なさげに系図を手に取る。
 「えーと…ユーサーには五人の子がいて、その全員が「金瞳」を受け継いでいる。で、ユーサーは定石通り長生きして、王位を受け継いだのは、長男のユージェル、即位後十三年で死亡。まあ、親が長生きだったからねえ。その次がユーサーの末っ子の…アリシア?女王なんだ?」
 「そのあたりはまだ周辺との小競り合いが続いていて、男子がことごとく討ち死にしてるんだ。「金瞳」を持つ男子は、一番年嵩のでも、…三歳」
 「ふうん…ユーサーの曾孫くらいまでは、王位があっちこっち行ってるんだねえ。…馬鹿龍も、随分と苦労しただろうな」
 「だから、馬鹿龍、というのは」
 「はいはい。えーと、「金瞳」の持ち主が、同時代でいちばんたくさん居たのは……」
 「…大体このあたりだな。大公家が7つある。…この辺からかな、「金瞳」を持たない王族が出始めたたのは」
 「それまでは、王族の子に生まれれば、必ず「金瞳」があった?」
 「…何聞いてた?それで内乱になったって説明したろうが」
 「それは、覚えてる。今と状況が近いなって思ったから」
 「…近い?」
 「王に後継ぎがいないとことか、外にできた子が「金瞳」を持っていたこととか」
 「…それまでの内乱では、「金瞳」を持つ者同士の争いになって、契約の龍の力はあてにできないので、悲惨な戦いになった、ということだ。それでも龍はゲオルギア家を見放さなかった、と。…ここ。ずいぶん末端の方から、次の王が立ってる」
 「そんなにしてまで守る価値のある一族なのかなあ、ゲオルギア家って」

#日記広場:自作小説




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