10月自作「ハロウィン『つまらないカボチャ』」
- カテゴリ:自作小説
- 2011/09/22 02:41:00
子供にはカボチャをくり抜くのが難しかったから、ハロウィンのカボチャを母に頼んだことがあった。母が作ったカボチャはシンプルで迫力のかけらものなかった。
「もっと怖いゲジゲジな口とか三角の怖い目にして欲しいよぉ」
私がだだを捏ねると、何気なく母が
「ろうそくの火で複雑な影ができると困るから」
そうつぶやいた。
「怖い影が迫力を増すのがいいのに!」
私は怒って母にたてついた。その言葉に何か困ったように
「そうよね。どうして怖い影を作れないのかしら?」
困惑しながら母が言う。ほんとに何故かギザギザに彫れないらしいのだ。
母は決して不器用ではなかった。むしろとても繊細な加工もする器用な手を持っていた。でもなぜか、「影ができる箇所」になると途端にその器用さは消え失せた。
そのアンバランスさが、私には気に入らなかった。
「どうしてそんなに影の形をきにするの?」
私は泣きながら訴えた。母はやはり、ひたすら困惑しながら
「私にもわからないの、ごめんなさいね」
と謝った。
かぼちゃのくり抜きは父の仕事になった。
「おかあさんのカボチャは迫力ないんだもの」
父がかわいい娘の我儘につきあってくれた。私の思う迫力のあるカボチャの顔ができあがり、中にたてたローソクでかぼちゃの影は迫力を増した。
ろうそくがユラユラゆれると、かぼちゃは悪魔の世界からの使者のような影を作った。それが近所の子供達の羨望の的となり、私は得意げに父の作成したかぼちゃのおばけを持って
「トリック オア トリート!」
と元気に近所の戸を叩いた。
やがて私はお菓子をもらう立場から、お菓子をあげる立場になっていた。母は父を天国に行くのを見届け、父と小さかった私の思い出に囲まれた家で過ごした。庭に2箇所設置した亡き父手作りのシンプルなベンチですごすのが母のお気に入りだった。
結婚した私は、日中、こまめに母の元に通い母の世話をするのが日課になっていた。とはいえ夕方になれば婚家に帰宅しなくてはならない。忙しい日々であった。
ある日のこと。庭のお気に入りのベンチで気持ちよさげな母はもうしばらくここにいたいと訴えた。
「ハロウィン用のかぼちゃの準備の約束があるんでしょう?私は大丈夫だから、早く帰ってあげなさい」
「あと一時間、いや三十分が限度ですよ」
そうだ、今日はハロウィン用のカボチャの吟味をする約束を子供としていたのだ
言い残して、バタバタ帰り仕度をして母の家を出たものの、何か胸騒ぎを感じて、こっそり家に戻ってみた。母は一人で何やら楽しそうにしゃべっていた。
「影の練習は大変?」
影の練習?
母は確かにそう言った。そして、ベンチを移動すると、また楽しそうにペチャクチャ一人で話しだした。話題は「影」のことだった。私には苦いカボチャの思い出しかなかったけれど、母はそれは楽しそうに一人でおしゃべりを続けていた。
やはり、耄碌しているのかもしれない。しかし楽しそうな母に声をかける隙がなぜかなかった。気になりつつ、私はそっと家を離れた。それが母との最期になった。
母は家の壁に置かれたベンチで息を引き取っていた。とても、とても安らかな顔であった。
ハロウィンまであと数日のことであった。
(おわり)
これは「闇の家」の外伝です。
「闇の家」 影の仕事をしている家族がいました。闇の家で影の練習を始めた子にある日、とんでもない事態が起こります。これはそのお話の後日談です。
何度も画面を上下させながら読み返しました。
不思議な雰囲気がすてきですね^^
子どもの頃には分からなくても、
大人になった時、同じ立場になった時、あるきっかけで気づく事って多いでしょうね。
主人公が 亡くなったお母様と道ですれ違った様な気がして思わず振り返るような
そんな光景まで浮かぶ素敵な作品だと思いました。
何度も読み返し、頭の中で情景を浮かべてようやく分かった気がしました。
「闇の家」を読んでみたいと思います!
読みやすい、雰囲気のある文章で引き込まれました
そして、何より品がありますね
「闇の家」も時間があれば読んでみたいと思っています
引き込まれますね。
母と娘の関係に興味を覚えます。
ミステリアスなのですが、母と娘の関係に興味を惹かれます。
影の練習?
気になります。これはもう、読んでしまいますね^^b
外伝楽しく読ませていただきました。
つまらないかぼちゃ・・・じつは影の女の子のやさしいかぼちゃだったんですね
自分でも気づかないほどの。
1つのお話でも他の人からの目線で書くと世界がどんどん広がりますね。^^
ありがとうございます^^
拝見しました
ありがとうございます