「契約の龍」(12)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/11 10:39:39
「…クリス?どうかしたのか?」
「幻獣の寿命なんて……考えたこと、無かった……」
「そうね。たいていの場合、幻獣は人よりも長生きだから」
「…ポチのことしか、頭になかった」
「ポチ?」
女史が怪訝な顔をする。まあ、当たり前のような気がするので、説明する。
「えーと、クリスの飼ってる、幻獣の名前、です」
「……可愛い名前、ね」
「どうしよう…どうしたらいいんだろう…」
「その…ポチ、のこと?」
「クリスには、「契約の龍」の存在が感じられないんだそうです」
「……大変。で、それは、いつから?」
「最初から、だそうです」
「変ねぇ。じゃあ、どうして魔法が使えるの?」
「それは、そういう人、だからでしょう。彼女の母親のように」
「ああ、そう、か。…ちょっと、「証」を見せてもらえる?クリスティーナ」
クリスがのろのろとシャツのボタンを外し始めたので、慌てて目をそらす。
「転移させることもできないのね。だけど………こんなにはっきり出ているのなら、寿命が尽きかけているとは思えないし、結びつきもかなり強いはずよ。これに匹敵しそうなのは……フィンレイ殿下の「証」、かしらね」
「クレメンス大公の?陛下の、ではなくて?」
そういえば、学長も似たような事を言っていたような気が…
「ええ。国王としての統治能力はどうか判らないけれど、少なくとも、「契約の龍」との結びつきは、大公殿下の方が上でしたわ。あんなことがなければ、今頃は陛下の補佐として活躍してらしたでしょうに」
「あんなこと、って?」
「クリスティーナは、ご存じない?ここで昔、大火事があった事を。アレクサンダーのご両親もそれで亡くなっているのよね?」
「…今、初めて聞きました。…それで学長が後見人に?」
クリスがこちらを覗き込んでくる。
「まあ、そういう事だけど…って、ボタンを留めろ!」
シャツの前ボタンが、外したままじゃないかっ。
「あ、忘れてた。…で、クレメンス大公が火事でどうなったと?」
「結果だけをいえば、意識不明の重体。で、現在に至る。王宮では会わせてもらえなかったのか?」
「全く。大公が王宮に居ることさえ知らなかった」
「そうですの。王宮に戻されてから、殿下に会わせていただけた方は居ないようなんです。王宮付きの医師とか魔法使いは別かもしれませんが」
「…六年もの間?」
「…六年もの間?」
「そう。お亡くなりになった、という噂もないから生きてはいらっしゃるんでしょうけど」
「身の回りの世話をする、召使い、とかからも、何も出てこない?」
「さあ……そこまではわかりませんわね。わたくしは王宮に密偵を送り込んでいるわけではありませんから」
「とにかく、この龍がどこかに引き籠って、大食いしてる、って事、かな?」
「そういうことに……なりますかしらね。仰り様があんまりですけど」
「で、それは何か能力を超えた仕事をしてしまったか……それとも、これからしようとしているか、って事?」
「その、可能性が高いですわね。龍族の能力を超えるような魔法なんて、そうそうはないはずですけど」

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- yako
- 2009/05/12 16:05
- 夜間指定ね!
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- リリン
- 2009/05/11 19:58
- 今日もたっぷり読ませていただきました^^
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