「契約の龍」(9)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/09 20:25:45
(ポチが元気なら、セシリアを守ってやることもできたのに……あんなに弱ってるなんて、気付かなかった)
どこにいる?
(人形に入ってなかったら、消滅していたかもしれない。ごめんね、ポチ)
どこから接触しているか、がわからない。本体は女子寮の方にいるから接触しに行ったら痛い目に会ってしまう。
(…アレク?そこにいるのか?)
リンドブルムにつながる微かなラインが、一瞬、活性化する。
と、次の瞬間、ひどく近くにクリスの気配を感じる。
(こうやってセシリアのこと、見守ってたんだ?)
半透明に揺らめく少女のイメージが浮かぶ。
(ずっと、ってわけじゃない。気候が悪いときとか、心配な時だけだ)
(基本的には、いつも心配なのでは?)
(否定する材料は、ないな。…ところで「ゲオルギアの龍に力を摂られた」って、どういうことだ?)
(…そのままの意味だよ。この「証」が表れてから、ポチが弱りだした。外に出しとくとどんどん弱っていくんで、この半年余りはずっと人形の中)
(他の幻獣は?)
(幸いなことに、あたりをうろつきまわる以上する子はいなかったので。私は半人前だから。それに、基本的にあまり力のない子はお好みではないみたい、あの龍)
(解放しようとは思わなかったのか?…その、ポチを)
(そんな事したら、それこそ他の幻獣に狩られちゃう。あの子は筋金入りの箱入りだから、獲物を狩る術を知らないんだ)
(箱入りって…幻獣が?)
(あの子は、かあ…母がまだこどもの頃――確か四歳くらいって言ってたかな――森で弱って落ちていたのを拾ったんだって)
(落ちていたあ?)
幻獣っていうのは、森に落ちてるようなものなのか?それとも、その森が特殊なのか?
(それ以来、ずっと人手で育てられてるから、獲物の狩り方を知らないし、成長も遅い)
(獲物って…他の幻獣を?)
(…と、思う。他のリンドブルムは見たことがないから、知らない。でも、ワームの狩りなら、見たことがある)
…どんな森だ。リンドブルムが落ちてて、ワームが狩りをするって。ここにも色々な幻獣がうろうろしているが、狩りをしてるとこなんて、見たことがないぞ。
(だから、ポチは人に預けた方がいいんだ。ゲオルギアの龍が、ポチに手出しできないようにすれば、迎えに行けるから。ただ、肝心の龍がどこにいるかわからないから、先は長そう)
(意気軒昂、だな。結構な事で)
(…そう宣言しとかないと、挫けそうになるからね。…そろそろ戻らないとね。愚痴聞いてくれてありがと。おやすみ)
そう残して、気配が消える。
愚痴、っていうのは…「不甲斐ない」ってやつか?
契約の龍が糧を欲しているのを妨げることなんて……できるのか?
そんな、誰にもできないような事ができないからって、不甲斐ないなんて恥じる必要は、ないと思うが。
毎日読めて 幸せですぅ☆