Nicotto Town



【小説】真夜中のブレイク B面

彼女の第一印象は僕にとってはあまり良いものではなかった。

入社後の配属先は、わが社でも花形部署と言われているところであった。
社内での少しくらいの融通はごり押し出来るような部署である。
ある日、ひとりの女性が部署にやってきた。

『松本さんってどなたですか?』
女性にしては、少し低めだが張りのある通る声であった。
対応した先輩社員が僕を指差した。女性はつかつかと僕の机の近くに立って僕を見下ろすした。

『アナタが松本さんですか?』
と、言い出し一枚の書類を僕の机に出した。それは僕が社内の登録用に提出した書類であった。

『松本さん、この書類に不備がありますので再提出してください。自分にとって当たり前の事でも、私たちでは解らない事もあります』
そして、赤えんぴつで三箇所に丸をつけた。つまり間違いが三箇所あるという事だ。

『こちらで解る範囲は少しは対応出来ますが、以後気をつけてください。同じ社内でも後工程はお客さまだということをお忘れなく』
僕の返事を聞く前に、課長のところに行って『宜しくお願いします』と捨てセリフを残して颯爽と部屋を出て行ったのである。

先輩社員がボソっと
『おお~さすがS女史。相変わらずキツいなぁ~。新入社員にも容赦がないねぇ』
まわりの人たちも、まったくだといった風な空気が流れた。

僕はとりあえずホっとして作り笑いをしたが
『しかし、彼女のいう事は筋が通っている。勉強になったな。松本』
と課長の柔らかではあるが少し厳しい口調が僕の動きを止めた。
解りましたとその時は答えたが、僕は女に負けた気がしていた。

彼女に対して少し苦手意識を持ったファーストコンタクトだったが、関わり合いのある部署同士だった事もあり、1年後には彼女と気軽に話す機会も増えていた。

仕事に対してきっちりしないと気がすまない性格であるとか。
入社以来、部署は変わってないとか。
年齢は僕より2つ上だけど、短大卒なので入社は4年先輩であるとか。
乗ってる車はスポーティカー(僕は車が詳しくないので車種はわからない)であるとか。
ケーキはモンブランが一番好きだとか。


付き合ってる彼氏がいる・・・・・・とか・・・・・・。


『松本君、何でそんな意外そうな顔するの?私にだって彼氏ぐらいいるわよ』
松本君と親しげに呼んでくれるようになっていた彼女から、衝撃の事実を聞いた時に僕は確信した。
僕は彼女が好きなんだ、と。

いつからだろう?彼女の姿を目で追っていたのは。
いつからだろう?社内で彼女に会う口実を作っていたのは。

彼女が僕になんの興味も無いことは解っていた。
でも、彼女とたわいない話をするが俗に言う僕にとっての『癒し』になっていた。
彼女の凛とした姿や考え方にいつのまにか惹かれていたのだ。

僕が社会人3年目の夏の終わりに、彼女は彼氏と破局した。
周りの人は解らなかったであろうが、ずっと見ていた僕は解った。

とある店から出てきた彼女を見つけたのは偶然であろうか?
彼女が自分の車に乗る時に切羽詰ったような顔に見えた。気になって車で彼女を追う事にした。
首都高4号線を新宿方面へ向かう。環状八号線で用賀方面へ。
ハイブリットが主流の昨今、彼女のスポーティーカーはある意味目立つので見失う事はなかった。僕の軽自動車が高速道路で悲鳴を上げてはいたけど。

一定の距離を保ちながら彼女の車を追う。目的地は羽田空港か?
と、そこまできて少し冷静になった。
僕ってストーカーみたい。でも、ここまで来たら帰る訳にもいかない。

しばらくして彼女の車がハザードランプをたいて車どおりの少ない道に止まった。
僕はすこし離れたところに車をとめる。
彼女はガードレールに腰掛けて夜空を見上げていた。時間にして30分あったであろうか。
その間に空をいくつもの飛行機が飛び上がって行った。

気がつくと彼女は店を出る時のような顔つきではなく、憑き物が落ちたようなすっきりした横顔になっていた。
やっぱり綺麗な女(ひと)だと思った。
さて、見つからないうちに退散しよう。

次の日、書類を提出して彼女を見るといつもどおりの姿があった。
僕は何故か安堵の表情を浮かべていた。そこにすっと彼女が寄って来てこういった。

『水色の車は夜でも結構目立つものね』

さて、なにか良い言い訳はないものかと思案する。
まずは、駅前でモンブランを買って来ることからはじめるとしよう。

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2012/04/06 08:37
ジーナを読んでいて。
自作小説の欄を読み返しました。

やっぱり!  いいわ。これ! 好き!

↓前も、コメントしてるけどね^^
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2012/02/01 22:19
(*゚ロ゚*)w
しゅーひさん、小説書かれてるんですね!
これはB面ってことはAもどこかにあるんですね~気になります✿

少しずつ、今度読ませていただきますね♪
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2011/08/23 09:58
しゅーひらしい軽快な文章で
すっと読めました

映像が頭に浮かんだんだけど、
どのシーンも明るかったよ
うん
実に、しゅーひらしいw
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2011/08/23 09:44
いい!  良かったよ~♪
次につながるような感じ~なんか~いい!
好きだなぁ~こんな感じ。
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2011/08/22 23:44
新たな関係性の兆しですね^^読んでいてホッとしました。
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2011/08/22 23:38
(*^_^*)
大好きなお二人のコラボ作品ですね。。
前作も好きだったから、こちらもお気にいりになりそう。。

よく二次小説読むんですが、それのドキドキと同じ感じをうけます^^
楽しめました~w
ありがとう、にいいさま。
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2011/08/22 18:50
あははw
もと小説も読んで来ましたよw

もともとある小説の裏話を書くのは…大好きです><www
そうやって短編が増えていくんですけどねぇ……

シリアスな中にちょっと微笑ましい終わり方が、
しゅーひさんらしくていいんじゃないかなーと思いましたw
そうか…水色の車は夜は目立つのか……(笑)
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2011/08/22 17:52
元の小説も読ませていただきました^^
確かに「ジェットストリーム」っぽい^^
そして「わたせせいぞう」さんのイラストのようで、ユーミンの「中央フリーウェイ」っぽい^^
今の若い人もこんな感じなのかな?
その昔、折に触れて、羽田の離発着を見にいったものです^^
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2011/08/22 17:43
いいんでないかい^^「ジェットストリーム」みたくって♪
アバター
2011/08/22 17:28
この小説は
元々他の方が書いた小説の別アプローチとして書いたものです。
(作者様にはご了承済み)

ちょっぴりアレンジしておりますが
いかがでしょうかねw

2000文字制限があったので
説明をだいぶ省いたところがあります。

元の小説はコチラ
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=884923&aid=30839171

先にそっちの方がいいのかな?





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