Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(3)

 学長の言葉で、矛先が逸れる。
 「私は「姫」なんかではない。名簿にもちゃんと記されているだろうが。クリスティーナ・アウレリスと。断じてゲオルギア家の者ではない」
 その偉そうな口調で「姫」じゃないって言い張るのは、無理があるんじゃないかと思うが。第一、
 「その「金瞳」が、王家に連なる者であることを示しているじゃありませんか?」
 寛げた襟元から、金色に光る、「証」の一部が見え隠れしている。それを指摘すると、
 「覗き込むんじゃないっ!」
 慌てて襟元を掻き合わせる。別に覗いたわけじゃないんだけどな。
 「…大体、これを何とかしたくて、ここに入ったんだからな、私は」
 一年ほど前、彼女の母親が死んだのとほぼ同時期に、その「証」は表れたのだという。通常、幻獣憑きの証は、その幻獣との契約を交わしたときに表れる、もしくは生まれつき備わっているものなので、クリスの場合、その母親が「証」が表れるのを妨げていたのだろう、というのが、この部屋の主の見立てだ。
 「なんとかする、って?」
 「消す、とか、見えなくする、とか、誰かに押し付けるとか。去年の夏は、襟の詰まった服しか着られなくて、暑苦しくて仕方なかったぞ」
 ………そんな理由で「証」をどうこうしたがる者がいるとは。そもそも、「証」を隠そうとする者もあまりいない。
 「それならば、見えにくい位置に移動すればいいでしょう。契約の龍に命じるなり、お願いするなりして」
 「…できないんだ。この「証」につながる龍の存在を、どこにも感じられない」
 契約の幻獣の存在を感じ取れない?「証」があるのに?
 「それもあって、ここで一から学ばせることになったってわけだ。納得したかね?アレク」
 「王宮の連中にはなんとかできなかったのか?同じような「証」の持ち主である陛下、とか」
 同じ幻獣を共有するのならば、その幻獣を通じて、相手の状態を知ることができる、というようなことがあるらしい。
 現在、「証」の持ち主は、クリスを除いて四人。国王陛下、王弟殿下のクレメンス大公、先の王弟殿下であるハース大公、先王陛下の従妹のジリアン女大公。そのうち、陛下とクレメンス大公は王宮に常駐している。
 「うーん…それはどうだろうね。彼は、あまり優秀な生徒とはいえなかったからねえ。むしろ、弟のレイ君の方が有望だったような気がするけど」
 「……レイ君?」
 誰のことだ?
 「フィンレイ・クレメンス・ゲオルギア。クレメンス大公のことだよ。彼は七年前に十五カ月ほどここにいたことがある」
 ああ、王族は「幻獣憑き」だから、いったんはここに入るわけだ。
 「ちなみに、陛下も二十二年前から五年間、在籍している。ソフィア君がここにいたのが……ちょうど二十年前からの三年間、か」
 「ソフィア君?」
 「私の母のことだ。昔話は措いといて、これは何とかできないのか?実習では着替えることもあると聞いたが…」
 確かに、案内したところの中には更衣室があった。その時、顔をしかめたような気がしたが…あれは、気のせいじゃなかったのか。
 「これをほかの者に見られるのは、まずいんですね?……ゲオルギアを名乗っていないから?」
 「それもあるが……できれば、私の存在自体を、ほかの生徒たちから隠したいくらいだ。うるさくって仕方がない。できるか?」
 すがりつくような目で、こちらを見上げる。寄ってくる有象無象を、片っ端から撃退した者の言葉とも思えないが。
 「目くらましの魔法は、誰かから教わりませんでしたか?」
 「寮に落ち着いてすぐ、知ってる限りのを、片っ端から試した。だが、思ったような効果は出なかった。だいたいここは、いろんな力が干渉し合ってて、集中できない」
 「…効果が出ない?」
 そう言うと、学長が室内を外部の干渉から遮断した。
 「これならどうかな?やってごらん」
 そう促されたクリスが、胸元に手を当て、集中する。唇を開いて、呪文を詠唱しようとし、ふと顔をあげる。
 「…ところで、ちゃんと見えなくなっているかどうか、誰が確認するんだ?」
 確かに。いくら発達途上で起伏が少なくても、未婚女性の胸をまじまじと見つめるのは、まずい。ましてや、本人は否定しているが、彼女は王族だ。
 「…後ろを向いていますから、確認は学長にお任せします」
 そう宣言して、彼女に背を向ける。
 程無くして、魔法の発動を感じたが、奇妙に歪められたような感じがした。
 「残念ですが、更衣の際は、薄手の肌着を着用なさいますよう、お勧めします」
 全然残念ではなさそうな声で学長がそう言うのが聞こえた。

#日記広場:自作小説

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2009/09/01 03:20
幻獣かあ。なつかしい響きです。
20年前だったか、ボルテェスの『幻獣事典』を買って読みました。
お気に入りで1年いた上海にもっていきました。
帰国してから、いくつか小説講座を受講して
竜と魔法を登場させたら、
「基本練習として純文と推理をやりなさい」
と何度も注意されたものです。(むかっ!)
講師の助言は無視して練習作に「幻獣」を出し続けましたけれど。
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2009/05/08 01:39
ステキです☆
まぷこさんの文才には 惚れ惚れしてしまいます
続きも お時間があるときに 是非☆
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2009/05/07 21:20
ブログ広場から来ました☆
1から読みました!魔法とか幻獣とか素敵ですね☆



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