『精霊の世界、星の記憶』第10話「ローズ~」①
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/21 21:54:11
第二章 アプリコットの野
「ローズ・フローラの歌」
美しくやわらかい薔薇の花の雨を、星史たち三人はしばらく受けていた。
薔薇の花びらが一枚、テーブルの上のカップに落ちていく。
ローズ・フローラはやさしく微笑んで、両手を胸にあてた。
「消えてしまっても、あの人の思いは消えない」
と精霊の言葉でぽつりと言った。
星史は気になって隣に立っているシルビアの方をチラッと見る。
シルビアはすぐに気がついて、小さく笑った。
シルビアは星史の耳元に顔を近づけ、
「亡くなってしまっても、カトゥル・フイュの心は無くならない」
とこっそりとささやいた。
星史はちょっと耳がくすぐったかったが、何だか幼なじみのような温かい感じがした。
「ありがとう、シルビア」
と星史も小声で言う。
ローズ・フローラがいつのまにか星史たちの方を見ていて、くすくすと笑っていた。
「仲が良いのね! 二人とも座って。お茶を入れるわ」
星史とシルビアは、何となく恥ずかしくって顔を赤らめていた。
思わず二人ともお互いの方を見て、そしてあわててイスに座った。
するとローズ・フローラが、カップに温かい薔薇の花のお茶を注いでくれた。
「薔薇の花のクッキーよ。召し上がって」
と薔薇の花びら入りの可愛いクッキーを置きながら、イスに座った。
「セリア=シルビア、何だかいいわねぇ。可愛い弟ができたみたいで」
「えっ? あっ、オトウト? えっ?」
とシルビアは目を丸くして、お茶をごくんと飲み込んだ。
「そう、アトのことよ」
とローズ・フローラは楽しそうに言う。
「あっ、アトね、弟……」
となぜかシルビアはあわてながら答え、星史の方を見た。
「うーん、そうかもしれない……」
「そうよ! それにしも、セイジがもう少し大きくなったら、きっとカトゥルに似てくるんでしょうねぇ」
とローズ・フローラは頬杖をつきながら、華やかに星史を見つめながら言った。
そのまなざしに、星史は思わず胸がドキッとした。
「うん、絶対にカトゥルに似てくる。セイジはやさしくって、穏やかだもの」
一人うなづきながら、ローズ・フローラは嬉しそうに言った。
星史はお茶を飲んで、クッキーに手を伸ばした。
一口かじると、お茶よりも濃い薔薇の香りが口の中で広がった。
ほどよい甘さで、サクサクっと食感もよかった。
「これ、すごくおいしい!」
と星史は思わず声を上げた。
「薔薇の花の贈り物よ。薔薇の根からとれる粉に花びらを混ぜて、味付けは薔薇の花の蜜なの」
「へぇ、今度作ってみようかなぁ。でも、お母さんのようには作れないかもしれないけど……」
「作れるといいけど、人間の世界で薔薇粉はとれるかしら?」
とローズ・フローラは右手を口にあて、考えながら言った。
「薔薇粉はないかも。でも、小麦粉ならあるよ!」
「そうねぇ、人間の世界には人間の世界にあったものがあるわね。セイジのお母さん、お料理上手なのね!」
「うん、上手だよ!」
と答えると、星史の表情はちょっとくもった。