Nicotto Town



『精霊の世界、星の記憶』第10話「ローズ~」①


第二章 アプリコットの野


「ローズ・フローラの歌」



美しくやわらかい薔薇の花の雨を、星史たち三人はしばらく受けていた。

薔薇の花びらが一枚、テーブルの上のカップに落ちていく。

ローズ・フローラはやさしく微笑んで、両手を胸にあてた。

「消えてしまっても、あの人の思いは消えない」

と精霊の言葉でぽつりと言った。

星史は気になって隣に立っているシルビアの方をチラッと見る。

シルビアはすぐに気がついて、小さく笑った。

シルビアは星史の耳元に顔を近づけ、

「亡くなってしまっても、カトゥル・フイュの心は無くならない」

とこっそりとささやいた。

星史はちょっと耳がくすぐったかったが、何だか幼なじみのような温かい感じがした。

「ありがとう、シルビア」

と星史も小声で言う。

ローズ・フローラがいつのまにか星史たちの方を見ていて、くすくすと笑っていた。

「仲が良いのね! 二人とも座って。お茶を入れるわ」

星史とシルビアは、何となく恥ずかしくって顔を赤らめていた。

思わず二人ともお互いの方を見て、そしてあわててイスに座った。

するとローズ・フローラが、カップに温かい薔薇の花のお茶を注いでくれた。

「薔薇の花のクッキーよ。召し上がって」

と薔薇の花びら入りの可愛いクッキーを置きながら、イスに座った。

「セリア=シルビア、何だかいいわねぇ。可愛い弟ができたみたいで」

「えっ? あっ、オトウト? えっ?」

とシルビアは目を丸くして、お茶をごくんと飲み込んだ。

「そう、アトのことよ」

とローズ・フローラは楽しそうに言う。

「あっ、アトね、弟……」

となぜかシルビアはあわてながら答え、星史の方を見た。

「うーん、そうかもしれない……」

「そうよ! それにしも、セイジがもう少し大きくなったら、きっとカトゥルに似てくるんでしょうねぇ」

とローズ・フローラは頬杖をつきながら、華やかに星史を見つめながら言った。

そのまなざしに、星史は思わず胸がドキッとした。

「うん、絶対にカトゥルに似てくる。セイジはやさしくって、穏やかだもの」

一人うなづきながら、ローズ・フローラは嬉しそうに言った。

星史はお茶を飲んで、クッキーに手を伸ばした。

一口かじると、お茶よりも濃い薔薇の香りが口の中で広がった。

ほどよい甘さで、サクサクっと食感もよかった。

「これ、すごくおいしい!」

と星史は思わず声を上げた。

「薔薇の花の贈り物よ。薔薇の根からとれる粉に花びらを混ぜて、味付けは薔薇の花の蜜なの」

「へぇ、今度作ってみようかなぁ。でも、お母さんのようには作れないかもしれないけど……」

「作れるといいけど、人間の世界で薔薇粉はとれるかしら?」

とローズ・フローラは右手を口にあて、考えながら言った。

「薔薇粉はないかも。でも、小麦粉ならあるよ!」

「そうねぇ、人間の世界には人間の世界にあったものがあるわね。セイジのお母さん、お料理上手なのね!」

「うん、上手だよ!」

と答えると、星史の表情はちょっとくもった。

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