Nicotto Town



『精霊の世界、星の記憶』第9話「薔薇の花の雨」①

第二章 アプリコットの野


「薔薇の花の雨」


小高い岩からふわりと花びらが舞い散るようにスカートを広げて、ローズ・フローラは星史たちの前に舞い降りた。

「人間に殺されたって……」

と星史は、何か心に沈んでいくものを感じながらつぶやいた。

「そうよ、殺されたの。あなた人間でしょう?」

星史はこくりうなづいた。

「あなたがなぜ、こんな所にいるのかわからないけど、わたしは人間が大嫌いなの!さっさと、この精霊の世界から出て行きなさい」

とローズ・フローラはキッと目をつり上げ、星史をにらみつけるように見た。

星史は黙ったままローズ・フローラの黒い目をただ見つめた。

ローズ・フローラは星史のあまりにも澄んだまなざしに、ふと視線逸らした。

「早くわたしの目の前から、消えてちょうだい。人間なんて、視界に入ってくるのも嫌。見ていたくないのよ」

とローズ・フローラが激しく言うと、シルビアは困った顔をして、

「ティア=ローズ・フローラ、イオディー モストラビューリ(年上の精霊ローズ・フローラさん、この人が悪いわけではないわ)」

となだめるように言った。

「セリア=シルビア、クリリマ イーノ。ウェル クロロマ ロリス スーレ……(森の精霊シルビア姫、わかっているわ。わかっているけど、言わずにはいられないのよ……)」

とローズ・フローラは辛そうにそう答えた。

星史にはどういう会話をしているかわからなかったが、

「ローズ・フローラさん、ごめんなさい。ここからすぐに離れるけど、でも、人間界にはすぐ帰れないんだ。セフィロスが疲れて寝むちゃって……」

と深く頭を下げながら言った。ローズ・フローラはセフィロスという言葉を聞いて、

「ウィル・セフィロス?(始祖老樹・セフィロス?)セフィロス様が? なぜ?」

と驚いて言った。

「どういうこと……?」

「セイジはセフィロス様に呼ばれて、この精霊の世界に来たの。どういう理由か、わたしにもそれはわからないけど……」

とローズ・フローラの問いにシルビアが答えた。

「あのう、本当にごめんなさい。ぼくもう行きますから」

と星史はもう一度言って、そこから立ち去ろうと後を向いた。

「待って!」

となぜかローズ・フローラは星史を引き止めてしまった。

思わず星史は振り返って、ローズ・フローラを見つめた。

ローズ・フローラも星史をしばらくじっと見つめた。そして、

「待って、わたし言いたいことがあるの。ついて来て」

とぽつりと言い、ローズ・フローラは歩き出した。

星史はシルビアの方をチラッと見た。

シルビアは小さくうなずいて、ローズ・フローラの後について行った。

星史もあわててついて行った。

ついて行くとマゼンタ色の薔薇の花が広がる花園に、白いガーデンテーブルとイスがあった。

「そこに座って」

とローズ・フローラは抑揚のない声で二人に言った。

星史はシルビアと顔を見合わせて、白いイスに座った。

ローズ・フローラは淡いピンク色のお茶をカップに注ぎ、星史とシルビアの前に置いて空いているイスに座った。

「どうぞ、飲んで。薔薇の露と薔薇の花のお茶よ」

と二人にお茶をすすめた。

星史はカップを取り、口の方へ運んだ。

薔薇の芳しい香りが漂ってきて、お茶を口に含むとその香りが口中にほんのり甘く漂ってきた。

「カトゥル・フイュは、人間に殺されたのよ……」

とローズ・フローラは頬杖をつきながら、ぽつりと言った。

星史は静かにカップを置き、ローズ・フローラを見つめた。

「そう、殺されたの。人間は欲深い生き物、自分たちのことだけしか考えていない。他の生き物のこととか、地球の循環システムとか無視して、全然考えていないのよ。森を削り、水を汚し、挙句の果てに自分たちの首まで絞めている。愚かだわ……」

と独り言のようにローズ・フローラは言った。

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