『精霊の世界、星の記憶』 第8話「花の精霊」
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/02 19:42:50
第二章 アプリコットの野
「花の精霊」
シルビアはそのままうつむいて、しばらく静かに目を閉じていた。
砂金のように美しい髪が、ぱらぱらと背から肩の方へ流れるようにこぼれていった。
星史は何か変なことを聞いてしまったのかと、気まずい感じを覚えた。
シルビアに何か言おうと星史は必死に言葉を探した。
そうあれこれ言葉を探していたとき、シルビアは急に顔を上げた。
そして空の方を見上げて、
「クレムーニュア、グリットゥア、シルク!」
と大きな声で言った。
星史は面食らって、シルビアの姿を見つめていた。
そのことに気がついたシルビアは、
「セイジ、シルクが気流に乗っているの。アプリコットの野もね、すごく広いの。だからシルク、気流に乗って移動しているの」
と星史に説明し、さらに、、
「私、気流に乗ってあちこち行くより、歩いて行く方が好きよ」
と言った。
星史はほっとひと安心した。
胸をなで下ろしながら、
「ねぇ、シルビア、さっきのクレ?何とかというのは、精霊たちの言葉?」
と星史はシルビアに聞いた。
「ええ、そうよ。『クレムニューア』は、さよなら。『グリットゥア』は、えーと、そう……、あっ、また会いましょう!よ」
とシルビアは丁寧に答えた。
「クレ……」
「うん、クレムニューアよ」
「クレムニューア?」
「そう、クレムニューア! また会いましょうは、グリットゥアよ」
「グリットゥア?」
「うん、そうよ」
「クレムニューアにグリットゥア。精霊たちの言葉、何だか魔法の言葉みたいだね!」
と星史がシルビアに精霊たちの使う言葉を教えてもらいながら歩いていると、どこからともなくガラスのように透明でもの悲しい歌声が聞こえてきた。
星史は急に立ち止まって耳をすませた。
歌声は、左の方から聞こえてきていた。
星史が立ち止まったのでシルビアも足を止めていたが、急に左の方向へ歩き出したのであわててついて行った。
しばらく早足で歩いていた星史が、突然立ち止まった。
「シルビア……、シルビア、あれ!」」
と右手の人指し指で、小高い岩を指差した。
シルビアは星史が指差した方を見て、、
「ティア=ローズ・フローラ……」
と小さくつぶやいた。
「この歌、あの人が歌ってるの?」
と星史が聞くと、シルビアはうなづいたが、
「セイジ、あっちに行きましょう」
と言い、星史の右手をとってその場から離れようと引いた。
しかし星史は逆に、小高い岩の方へ歩いていった。
まるで悲しい歌声に、引き寄せられるように……。
小高い岩の周りには、棘のあるマゼンタ色の薔薇の花たちが咲いていた。
とてもいい香りがした。
小高い岩の上には、黒髪の美しい女性が座って歌を歌っていた。
後ろ向きなので、顔の表情などはわからなかった。
わたしは愚か あなたが消えてから気がついた
ただ歌を聞いてほしかった もう一度あなたに
青い空 広がる光 アプリコット草の香り
輝いていた花のしずく 風の踊り
聞いて いいえ 聞かないで
わたしの心 わたしは歌いたかっただけ
楽しければ笑い 悲しければ泣く
こんなに簡単なことだったのに 今はできない
わたしは愚か あなたがいなくなって気がついた
こんなにも包んでいてくれたのに
たわむれ言葉なんか 聞いてくれなくてよかったのに
あなたが好きだった歌が もう歌えない……
「セイジ、あっちに行きましょう。ローズ・フローラは、……ローズ・フローラの、コイビト、愛する人を失ってしまったの……。愛する人を……」
とシルビアが言いかけていると、小高い岩の上の女性が歌うのをやめて振り返って、
「人間に殺されたのよ。カトゥル・フイュは、人間に殺されたの」
と感情のこもらない声で、坦々と言った。
ローズ・フローラは、薔薇の花のように美しい精霊だったが、氷のように冷たい表情をしていた。
とても嬉しいコメント、どうもありがとうございます♪(=⌒▽⌒=)
風の妖精、いいですよね!! 憧れます☆
いつも読んで下さり、嬉しいです♬ ^^
今日はゆっくりお話し読ませていただきました
素敵な妖精たちが次々出てきてステキですね
私は妖精の中でもがぜの妖精が特にお気に入りです