『精霊の世界、星の記憶』 第7話「風の精霊」②
- カテゴリ:自作小説
- 2011/05/16 20:49:26
星史は急すぎて「えっ?」と訳がわからなかったが、なめらかで心地よい風が、グルグルグルっと渦を巻き始めた。
そして風がもとの穏やかな線をなめらかに描き流れ出すと、絹のように美しく長い銀色の髪をした少女がそこに立っていた。
その少女の瞳の色は、アメジストのような紫色だった。
目が合ったとたん、星史はその瞳に吸い込まれてしまいそうで、目が離せなくなっていた。
そんなことにはおかまいなしで、その少女は華やかに笑みを浮かべて、
「はじめまして、セイジ。わたしは、シルクっていうの。よろしくね!」
とあいさつしてきた。
星史は照れ笑いを浮かべながら、
「はっ、はじめまして! ぼくは森村星史。よっ、よろしく!」
とあわてて言い、手をシルクの方に思わず手を出していた。
シルクは一瞬首をかしげて戸惑った顔をしたが、すぐに手を差し出し星史の手を握って握手をした。
星史はあわてていたので思わず手を出してしまったことに後悔したが、すぐにシルクが反応してくれたので、ちょっとほっとした。
シルクの手は真珠のような淡い光があり、マシュマロのようにやわらかかった。
外見はシルビアが太陽のような美しさで、シルクが月のような感じの美しさだったが、性格は全く逆だと星史は思った。
「わたしは風の精、風の精霊なの。今の季節はね、このアプリコットの野で働いているの」
とシルクは明るい声で言った。そしてさらに、
「それでね、わたしの背中には四枚の翅があるの。見せてあげるわね!」
と言いながらシルクは翅を出して広げて見せてくれた。
「この四枚の翅で風を送るの。風を送ってね、ここのお花たちの花粉をそっと運んであげるの。そうすると、また来年もお花がたくさん咲くのよ」
シルクはふわりと体を浮かせ、くるっと軽やかに一回転した。
シルクの翅は美しい七色に光っていたが、それはやさしい感じの光り方だった。
まわれ まわれ
花のまわりを
風といっしょに
まわれ まわれ
たのしいワルツ
花のワルツ
さぁ いっしょに
おどりましょう……
シルクが明るく透き通る声で、花たちの歌をひと通り歌った。
シルビアと違って、春の日差し、初夏のような日差しのまぶしい感じ、七色に光るような感じの歌い方だった。
「シルクの翅、とてもきれいだね!」
「そうかしら?」
しみじみとそう思いながら言った星史に対し、シルクはとても不思議そうな顔をして答えた。
「うん、すごくきれいだよ!」
と強くうなずきながら、星史はもう一度言った。
「そうなのかしら……ねぇ……。この翅はね、実は花が散ったら取れてしまうの。花が散ってしまったら、もう役に立たないから。でもね、毎年この翅は生えてくるのよ。そうすると、ここのお花たちが咲く季節になるの」
「へぇ、そうなんだ。翅きれいなのに、もったいないね」
と星史がとても残念そうに言うと、
「うーん、でも、本当に必要ないのよ。わたしたち精霊は、気流に乗ればどこへでも気軽に行けるもの」
とシルクは言った。
「わたしね、普段は風を強くしたり、弱くしたり、吹いている風を穏やかな風にしているの。わたし自身が風を作るのは、ここのお花たちが咲く時期だけなのよ」
と言い、シルクは急にハっとして、
「あっ、お仕事!……すっかり忘れちゃっていたわ。だめねぇ。じゃあね、セイジ。クレムーニュア、シルビア」
とあわただしく言い残し、宙にふんわりと舞い上がったかと思ったら、もう姿が消えてしまっていた。
星史はシルビアの方を見た。
「シルビアも気流に乗れるんでしょう?」
と聞くと、シルビアは何も言わずにうなづいた。