■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見え…(14
- カテゴリ:その他
- 2011/04/18 22:03:52
■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見えたる思想 中(6)
此の意味よりいふときは、西鶴の思想は多くの點に於いて却つて近代の歐洲文藝に見えたる思想と接邇する。個人性の寂寞、感情性の不滿、快樂性の悲哀、これ併しながら已みがたき人生の眞相である。
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其の頃おさんも茂右衞門つれて御寺にまゐり、花は命たとへて、いつ散るべきも定めがたし、此の浦山をまた見る事の知れざれば、今日の思ひ出にと、勢田より手ぐり船を借りて、長橋の頼みをかけても、短きは我々がたのしみと、浪は枕の床の山、あらはるゝまでの亂れ髪、もの思ひせし顏ばせを、鏡の山も曇る世に、鰐の御崎の遁れがたく、堅田の舟よばひも、若しや京よりの追手かと、心のたまも沈みて、ながらへて長柄山、我が年のほども此處にたとへて、都の富士二十にもたらずして頓て消ゆべき雪ならばと、幾たび袖をぬらし、志賀の都は昔語と我れもなるべき身の果ぞと一しほに悲しく、龍灯のあがるとき白髭の宮所につきて神いのるにぞ、いとゞ身の上はかなし。
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*註1:此の意味よりいふときは
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:近代
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註4:感情性
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註5:手ぐり船
「船」の旧字体。「舟」+「几」+「口」。
*註6:頼み
「頼」の旧字体。旁の「頁」が「刀」+「貝」
*註7:浪は枕の
「浪」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rou_nami.jpg
*註8:鏡の山
「鏡」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kagami_kyou.jpg
*註9:遁れがたく
「遁」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註10:追手
「追」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:都の富士
「都」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/to_miyako.jpg
*註12:消ゆべき雪
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。
「雪」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_yuki.jpg
*註13:袖をぬらし
「袖」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sode.jpg
*註14:宮所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註15:神いのる
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
今余震中ですよ^^