■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見え…(12
- カテゴリ:その他
- 2011/04/17 00:03:37
■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見えたる思想 中(4)
と言つたのは、大體に於いて今も變はらぬ吾等が考である。彼れが作中、小説として最も傑れた『五人女』に於いては、さすがに人生が馬琴等の描いた如く不具でもなく、死物でもなく、活きてしかも要を摘み得た全人生の縮圖が描き出されてゐる。而して斯くの如く描き出された人生は、其の歸趨に於いて一種の西鶴調を具してゐる、それがやがて彼れの人生に對する思想の影でなくてはならぬ。
いかにも彼れは色道の快樂を中心として其の作を仕組んだ。物語の表は快樂觀の人生である。併し其の底に作者の思想として潜んでゐるものは直反對なる哀傷である。一冊五篇の小説は悉く人生の悲哀歌つたものと見られる。但し斯いふのは必ずしも作の結末が悲劇であるためでないのは言ふまでもない。結末はたとひお夏が尼とならずして清十郎の命を救はうとも、おさん茂右衞門が殺されずして隱れおふせやうとも、聊かも變りはない。全部讀みゆくうちに、吾等が心は一種のみじめにして濕つぽいやうな、もどかしくて胸の底をかきむしられるやうな、たまらぬ不滿足な感を發して來る。いはゞ厭世の感でもあらう、歡樂きはまつて哀傷多しといふ、其の套語の意味が正しくそれである。
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*註1:小説
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註2:不具・具して
「具」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gu_sonaeru.jpg
*註3:要を
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註4:全人生・全部
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg
*註5:西鶴調
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg
*註6:色道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:併し
原本の他の箇所では正字体が用いられているがここでは「併し」。
*註8:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註9:清十郎
「清」の正字体。「月」は「円」。
なお「郎」は前出時、俗字体(?⇒http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rou.jpg)だったが、ここでは「郎」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
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