Nicotto Town



『精霊の世界、星の記憶』 第5話「出発」 ①

 星史はシルビアの言葉にうなづいたものの、その場にひとり残されて、どうしたらいいかわからなかった。

見知らない世界にひとりぽつんといると、何だか無性に淋しくなってきた。

――ただ待っているだけじゃ、何だか落ち着かないなぁ。

と思い星史は「あー」と発声してみた。

そして、語るように何かをぶつぶつ言い始め、それはだんだんと歌になっていった。

「……
 
……

La chanson que tu me chantais(ラ シャンソーン  テュ  シャンテー) 

C'est une chanson, qui nous ressemble(セ テュヌ シャンソーン  ヌゥ ルサーンブル)

Toi tu m'aimais et je t'aimais(トゥワ テュ メメェー  ジュ テメー)  

Et nous vivions tous les deux ensemble(エ ヌ ヴィヴィオン トゥー  ドゥー ザンサンーブル)

Toi qui m'aimais, moi qui t'aimais(トゥワ  メメー モワ  テメー)

Mais la vie sépare ceux qui s'aiment(メ  ヴィ セパール スー  セーム)

…… ……」

星史は無心に、流れるようなきれいなフランス語で「枯葉」(ジョゼフ・コズマ作曲/ジャック・プレヴェール作詞)という歌を歌っていた。

「とても素適な歌ね」

と突然隣で声がして、星史は驚いて歌うのをやめてしまった。

隣にシルビアが戻ってきていたことに、ぜんぜん気づかないでいた。

「あっ、ごめんなさい」

とシルビアは星史にあやまった。星史はあわてて、

「ぜんぜん大丈夫」

と答えた。

「哀しいけど美しい感じね……。何ていう歌?」

「『枯葉』」

「カレハ?」

Les Feuilles mortes(レ フゥィユ モルトゥ)」

「レ フゥ? イ……」

「レ フゥィユ モルトゥ」

「日本語じゃない、みたい……」

とシルビアは首をかしげながら言った。

「うん、日本語じゃないよ」

と星史が答えると、シルビアは、

「どこの国の言葉?」

と聞いてきた。

「フランス。ぼくのお母さんは、フランス人なんだ。お母さんがよく歌っていた歌で、小さいことから聞いていたから……」

と星史はどこか遠くを見つめるように、淋しそうな声で言った。

「まぁ、そうなの。えーと、そのー……、セイジは日本人ではないの?」

とシルビアは不思議そうに言った。

「うん? 日本人だよ、一応ね。ぼく日本に住んでいるし、お父さんは日本人だよ。それに国籍も日本だよ」

「そうなの? 私にはよくわからないわ」

とシルビアは首をさらにかしげ、不思議そうな顔をした。

しかしすぐに「あっ」と何かを思い出して、シルビアは二つの草の葉で編んで作られた巾着袋を星史に差し出した。

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