■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見え…(11
- カテゴリ:その他
- 2011/04/16 00:02:35
■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見えたる思想 中(3)
たゞ馬琴は、一途道念の滿足を得んと欲して煩惱の念を拒斥し、之れを以て人生の圓滿と心得候へど、西鶴はは然らず、西鶴が色欲の滿足をもて直に人生の圓滿と觀ぜしにあらざるは、『一代女』『五人女』などの中に勸懲の口氣を帶べる節少からぬを見ても知らるべく候。殊に自恣自由なる『一代女』を讀み了へたる眼を『五人女』に移すときは、此の事實最も著く見えすき申候。『五人女』は即ち西鶴の觀ぜし人間の全相なるからに、其の中なるは、色も戀も、『一代女』と異なり、極めて窮窟にして、煩惱の傍に常に何物かの看守するが如き心地いたし申候、例へば等しく肉欲の戀を寫し候も、『一代女』にありては、青天白日誰れ憚る所なきに引きかへ、『五人女』にありては、お夏と清十郎、お仙と長左衞門、おさんと茂右衞門、お七と吉三郎、何れも其の戀密事の性を有せるたぐひ、若しくは「世に神ありむくひあり、隱しても知るべし、人おそるべきは此の道なり」「あしき事はのがれず、あなおそろしの世や」等の評語を以てせるなど、明に西鶴が描ける人間の煩惱一偏に非ざりしを證するに候はずや。(『風雲集』)
[#ここで字下げ終わり]
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*註1:たゞ馬琴は、
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
なお、前ページから引き続きの引用文のため、一字分の字下げ。
*註2:一途
「途」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:道念
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:勸懲
「懲」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_korasimeru.jpg
*註5:帶べる節
「節」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_hushi.jpg
*註6:著く
「著」の正字体。(↓見本文字のクサカンムリが「十」+「十」なのが正字)
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyo_arawasu.jpg
*註7:全相
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg
*註8:肉欲
「肉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/niku.jpg
*註9:青天白日
「青」の正字体。「月」は「円」。
*註10:憚る所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註11:清十郎・吉三郎
「清」の正字体。「月」は「円」。
「郎」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rou.jpg
*註12:神あり
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註13:評語
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
上も読んで寝よう^^読めない字あるけど