■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見え…(7)
- カテゴリ:その他
- 2011/04/12 22:34:20
■近代文藝之研究|研究|「五人女」に見えたる思想 上(7)
作そのものゝ結果について見ても、潜在的と顯在的との二樣の思想がある。『五人女』二の卷、おせん長左衞門の結尾に「あしき事はのがれず。あな恐ろしの世や」などいへる類は、馬琴等の勸懲家が口吻にも似て、理趣の最も顯著なものであらう。けれども西鶴本來の作意は此の點にあらずして、結構着想の間だ隱約として寧ろ其のあしき事といへるものに滿幅の同情を注ぐの點にある。末の句はたゞ申譯の贅言とも見られる。即ち此の場合の西鶴が作は、顯在的思想として淺膚なる勸懲の理を含蓄しながら、潜在的思想としては、更に深奧なる人生の一面を説かんとしてゐる。斯かる事例は尚ほ枚擧に遑ないほどであらう。
また之れを作者の心の状態から見れば、思想の作中に吹込まれるに凡そ三樣の方式があり得る。第一は殆ど無意識不用意の間に思想の響作中に傳はるもの、第二は明かに意識して思想を作の中心に構へるもの、第三は更に一歩を進めて、意識して思想を構へながらわざと之れを埋伏せしめんとするものである。
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*註1:作そのものゝ結果
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:顯著
「著」の正字体。(↓見本文字のクサカンムリが「十」+「十」なのが正字)
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyo_arawasu.jpg
*註3:勸懲
「懲」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_korasimeru.jpg
*註4:同情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註5:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg
*註6:説かん
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註7:尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註8:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註9:状態
「状」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou.jpg
*註10:吹込まれる
「込」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:無意識・意識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
*註12:思想の響
「響」の旧字体、もしくは正字体だが原本画像不鮮明で確定できず。
旧字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_hibiku.jpg
正字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_seiji.jpg
*註13:進めて
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
5人女落語で聞いた事あるな^p^