■近代文藝之研究|研究|ルイ王家の夢の…(39)
- カテゴリ:その他
- 2011/04/02 22:53:51
■近代文藝之研究|研究|ルイ王家の夢の跡 十三(1)
十三
風物の遷らんとするや、ルイ王の富貴、ポムパドゥアの驕奢を以てするも、ヴェルサイユ宮殿をして長く美術の宗たらしむる能わず。其の繊細婉柔に對する反動の機は、早く十八世紀の後半、ルイ十六世が頃に萠したり。ルイ十四世は十八世紀の始めに死せりといへども、ロココ式美術はむしろルイ十五世の寵妃ポムパドゥアの生涯と終始して、十八世紀の後半に其の衰微を示せるなり。さればまたロココ美術の運命はルイ王家の運命にして、ナポレオン一たび之れに代つて起つや、反動の氣勢は所謂帝國式美術となりて第一帝國と共に興こりぬ。
ロココに對する反動は第二のクラシシズムなりき。一旦卷曲線の下に隱れたる建築的直線が、其の沈靜の威容を呼び返して、再び表面に顯はれ來たらんとせるなり。而して古典的といふが中にも、希臘よりはむしろ羅馬に心を寄せて、一切の事、羅馬帝國の昔に式せんとせしは實に、ナポレオンの理想にしてまた其の期の文明なるべし。羅馬式といふものゝ委細は今こゝに論ずを得ざれども、希臘の後を受けて、典雅沈靜の中に一味の雄健を加えたるものは、其の主なる特色なるべし。
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*註1:遷らん
「遷」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen_utsusu.jpg
*註2:ポムパドゥア
原本では「ポムパドウア」の表記だが誤植と思われるので改めた(本論『ルイ王家の夢の跡』前出時・後出時でも「ポムパドゥア」表記)。
ちなみにポムパドゥアは、現代では一般にポンパドゥール夫人(Madame de Pompadour)と呼ばれている。本名はジャンヌ=アントワネット・プワソン(Jeanne-Antoinette Poisson/1721年〜1764年)。
*註3:世紀
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。
*註4:後半
「半」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han.jpg
*註5:終始
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg
*註6:衰微
「微」の旧字体(と思われる/印字不鮮明)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bi_kasuka.jpg
*註7:運命
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註8:起つ
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註9:所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註10:返して
「返」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:而して古典的と
原本では「而して古曲的と」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註12:文明
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
やりますね、なんもいってないか