さて、しばらくして。
ウ～から、またメールが届きました。

ずっと昔、わたしの気持ちと一緒に、
小さくしぼんでしまったピアノ。
サチコに弾いてもらえて、うれしいナ。
突然だけど、明日ピアノに会いにいくょ。
止めても、ムダ。　　ウ～

「ウ～も昔、大好きだったピアノをやめたんだ」
メールを見て、サチコは考えました。
サチコには、ウ～のピアノが小さくしぼんでいく様子が、目に見えるようでした。
何があったかはわかりませんが、きっと、
ウ～のピアノへの思いがしぼむのと一緒に、ピアノは小さくなっていったのです。
そういえば、ウ～もサチコもメールアドレスの中に Piano の文字を入れています。
@ のあとに、Piano と続くのです。
そんな偶然に、お互い引かれあってメールを交換するようになったのでした。
ウ～がピアノをどれくらい好きなのかは、
サチコには、とてもよく、わかる気がしました。
さて、そのウ～が、やって来るのです。
いっか会ってみたいと思っていたウ～に会えるーーー。
それは、嬉しくてたまりません。
でも、サチコにはチョット気がかりな事がありました。
サチコより五歳年上のウ～と、同じ年だと嘘をついているのです。
子供っぽいと思われないように、
チョットだけ背伸びをするつもりでついた嘘でした。
ウ～がサチコを見て、がっかりしないか心配です。
その時、ベルが鳴りました。
インターホンで、ウ～だょ、という返事。
サチコは、走って玄関に出ます。
すると、そこにいたのは、
ブルーのベレー帽をカッコ良くかぶった～～おばあさんでした。
おばあさんは、ふんわり笑いかけると、いいました。
「本名は、水谷ウキ子。パソコンの中では、
ウキ子のウをとって、ウ～って呼んでもらっていたのよ。よろしくネ」。
「でも、まさか ! おばあさんだったなんて・・・」、
サチコは、すっとんきょうな声をあげました。
「年齢の事は、おあいこのようだけど ? 」、
「おあいこ ? 」 サチコはチョット不服そうに、ウ～をにらみました。
でも、急に可笑しくなって二人は顔を見合わせて、笑い出したのです。
そうそう、そんなウ～がサチコは大好きなのでした。

「どうぞ」
サチコは、ウ～をリビングに通しました。
ウ～はピアノを見て、ほーっと長いため息をつきました。
そして、嬉しそうにニッコリ笑いました。
懐かしい友達に、とても久しぶりに会った時のように、ね。
すると、ピアノがポロンと、音をこぼしたのです。
ウ～ !! 、久しぶり・・・・とでも言うように。
サチコは、胸が、きゅっとなりました。
そして、聞かずにはいられませんでした。
「そのー、もらっちゃっていいのかな、このピアノ。ウ～の大切なものなんでしよう」、
でも、ウ～はあっけらかんとして言います。
「もちろん。もぅ、サチコのピアノよ」、
そして、突然立ち上がると、深々とおじぎをしました。
それからきどって
「本日は、ピアノコンサートにお招きいただきまして、ありがとうございます」
なんて、言うのです。
「えっ、ピアノわたしが弾くの ? わたしが ? 」、
ウ～は、さぁーはじめて、と言うようにサチコの背中を押しました。
「でも、まだ上手に弾けないのょ」、
サチコは、とまどいながらもピアノの前に座ります。
急に胸が高鳴りだしました、発表会の時のように、
わくわくと嬉しくなってきたのです。
サチコは、初めてウ～のビアノを弾いた時のように、
静かに目を閉じ、それから、ゆっくりと目を開けました。
そして、思いっきりピアノを弾き始めました。
静かに、ゆっくり、そして力強く。
自分のために。それから、このチョット変わった友達のために。