Nicotto Town



『精霊の世界、星の記憶』 第3話「老樹」


第一章 シリンダの森



「老樹」



老樹に触れた星史の手は、温かいものを感じた。

「セイジ」

という声が微かに聞こえてきたが、空耳かもしれないと星史は思った。

が、しかし、

「セイジ……」

と呼ぶ低い声のようなものが、耳にではなく直接頭に響いてきているのに気がついた。

「何か、変……。頭の中で、胸の辺りで、声が聞こえる」

と星史は、頭の中で直接響く声に不思議なものを感じ、そうつぶやいた。

「セイジ、心話だからよ。心話は、直接心に伝えるの」

とシルビアは優しい声で言った。

「ねぇ、シルビア? この声の主は、この樹?」

「ええ、そうよ。セイジは、この老樹に呼ばれてきたのね」

とシルビアに言われ、星史は少し迷ったが、

「うん、たぶんそうなのかもしれない。大きな古い樹をの夢を見ていたから」

「この樹は、精霊の世界でも特別な樹なの。世界樹っていうのを、セイジは知ってる?」

「うん。世界を体現する樹、世界を支える樹だよね?」

「そう、世界を支える樹。この樹はね、セフィロトの息子なの」

「セフィロトの息子? ……世界樹の子孫なんだぁ」

と言うと、セイジは老樹の幹に左耳をあてた。

「……セイジ。星史……」

と呼ぶ声が、少し大きく響いてきた。星史は心の中で答える。

――うん、聞こえるよ。

「星史、わたしの名はセフィロス。シルビアが言っていたように、世界樹セフィロトの息子の一人である」

――うん。あっ、あの……ぼくが夢見ていた樹は、もしかしてセフィロスさん?

「そうだ、わたしだ。わたしが君を、ここに呼んだ。わたしには母ほどの力はないが、多少の力はある」

――なぜ、ぼくを呼んだの?

「セイジと夢の中で、会った。わたしたちセフィロトの一族は、人間界で尊ばれている木々とリンクして、世界を支える役目を担っている。夢は、いろいろなものの道だ。その道で会い、何度もいろいろな話をした」

――えっ? 会っていたのはわかるけど、ぼくいろいろな話をした? たぶん……、していたとは思うけど……、あまり覚えてないよ……

と星史が心の中で言うと、老樹セフィロスは笑って、

「覚えていなくてもいい。これが夢か、夢じゃないか、判断するのも君だ。星史、君が思う地球と現実の地球の姿、そしてこの精霊の世界を見て歩き、何を思うのかも自由だ。そうして、その後どうするかもだ……」

と答えた。星史は少し考えてから、

――セフィロスがここに呼んだってことは、セフィロスが元の世界に帰してくれるの?

と聞くと、

「申し訳ないが、今のわたしにはその力がない。力はあるのだが……、力を貯めるにはすごく長い時間がかかる。元の世界に帰るには、精霊たちの力を借りるといい」

と老樹セフィロスそう答えた。

――精霊たちの……

「そう、精霊たちのだ。すまないが、もう疲れてしまった。しばらく休みたい……。夢で樹の前に立っていた男は、若い姿だっただろう。それはわたしの魂の形だ。わたしのこの疲れは……すまないが、もう休ませてほしい」

と老樹セフィロスは、すぐに深い眠りについてしまった。

「セフィロス様、すごくお疲れのご様子。セフィロス様は、すごく強い力を持った方だけど、世界を守るためにお力を使いすぎてしまわれたの」

とシルビアが静かに言った。

「そうなんだ。それなのに、ぼくをここに呼んだんだね」

「きっと、セフィロス様はいろいろなことをお伝えしたかったのだと思うの」

「うん、たぶんそうなんだろうね。この木の皮の向うに、水が流れている音がする」

「うん、それは樹の命の素」

「人間もそうだよ」

「精霊もよ」

と言うと、二人同時に笑い出した。

星史はもう一度目を閉じ耳を澄ませ、心で聞こうとした。

すると、森の中に木々や風が歌っているのが聞こえてきた。


  みず みず いのちのもと

  ぼくたちの なかにも

  ときには なみだとして

  そとへ ながれだすよ


  みず みず いのちのおと

  くすのきの なかにも

  そっとみみを あててごらん

  ほらね ながれてるよ


  みず みず いのちのみず

  このうみの なかから

  いろんな いきものらの

  いのち うまれたのよ


  みず みず いのちのいろ

  このほしは まわるよ

  いつまで まわるのかな

  だから まもりたいよ


  みず みず かたちかえて

  ぼくたちの くらしに

  こんなにも かかわってる

  まわれ またまわれよ


星史がしばらく歌を聴いていると、

「セイジ、セイジは帰りたい?」

と突然シルビアがぽつりと聞いてきた。



≪・・・・・・つづく≫


#日記広場:自作小説

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2011/04/16 22:39
>若草さんへ

とても嬉しいコメント、どうもありがとうございます♬(≡^∇^≡)

いのちの水の歌、美しい精霊たちの世界ですが・・・・・・。
精霊たちとの交流で、きっと何かを見つけていくことだと思います☆
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2011/03/04 00:09
シリンダの森の光景が少しずつ見えてきました
そして命の光の詩も
母の心を話しに感じられたことに感謝いたします^^

老樹は星史に何をつたえようとしているのでしょうか
すごく気になります



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