2月小題 口笛/ファックス音
- カテゴリ:自作小説
- 2011/01/29 04:11:21
『僕は今日も、ファックスの音を口笛で歌う。
ピョロロ、ピョロロ、ピー、ピャララ、ピャララ、ピャララ、ジー、ピャララ、ジー、ピャララ…
ちょっと以前と違うかも?不安が寄ぎるが、今の100パーセントで、僕はファックス音を歌う。
彼女が寄ってくる。僕のファックス音は愛の歌なのを彼女は知っている。僕達はこの歌で夫婦を誓ったのだ、永遠に』
「また、始まったわ」
パソコンでネットをいじりつつ、この家にないファックス音がたからかに響くのをききながら、私は複雑な気持ちになる。元の飼い主さん宅のファックスは鳴り止まぬくらい忙しく働いていたのだろうか?
オカメインコの彼は、以前の飼い主に愛されて生活していた。そして、以前の飼い主の家の音を我が家で歌うのだ。ここに来て、もう何年もたってるというのに。
愛された彼が我が家に来たのは、元の飼い主の家の事情であり、元の飼い主は、断腸の想いで遠路、彼の里親を申し出た我が家に連れて来て、泣きながら別れを彼に伝えたのだ。
そして、彼の口笛は、何年たっても元の飼い主の家のファックス音を奏でている。少しづつ、遠のく記憶でファックス音も変化し、壊れてきているが、それでも、ファックスであることは判る口笛を彼は、元の飼い主を忘れながらも、愛のささやきとして我が家にいるメスのオカメインコに捧げている。
彼は我が家の生活になじんでいるーそう思う。思いたい。でも口笛で彼のたった一つの愛のささやきであるファックス音が年月を追うごとに微妙に崩れ、壊れていくことに複雑な気持でいることも否定できない。
私には、元の飼い主とすごしたように、今の彼が幸せなのか、わからない。
すでに彼の記憶から元の飼い主が消去され、わが家に元からいるメスオカメと夫婦きどりでいる彼なのに。その彼の愛のささやきが壊れ続ける元飼い主のファックス音というのは皮肉なのか?幸運なのか?
現飼い主の私にはわからない。忘却を望んでいるわけでもない。自分が同じ立場なら。自分と暮らした証の口笛を喜ぶに違いないから。
そしてまた、今日もまた繰り返されるファックス音の口笛を複雑な想いで、私は聞くのだ。
『僕は今日も歌うよ、愛しい君へ。ピョロロ、ピョロロ、ピー、ピャララ、ジー、ピャララ、ジー、ピョロララ…あれ?なんか違うような気がするけど?目の前の君はうっとり僕の口笛を堪能してるから、続けなくちゃね。ピョロロラ、ジー、ピョラララ、ジー…』
おわり
インコさんの方は飼い主さんが思うよりも辛くなさそうなのかな。とも感じました。
互いの気持ちがよく現れていて良かったです^^
全然関係ないかもしれないけど、そんなことを思い出させてくれたお話です。
不思議に切ないです。
ペット飼ってると、切ないこと多いですよね。
>トシraudさん
心情としては複雑だと思います。元の飼い主も
現飼い主も。実は一番能天気なのが当のインコだったり
して(^^;
>BENクーさん
切なさを感じていただければ、うれしいです。
いつも優しい感想に感謝しています
>紫草さん
元のと今のが混乱しそうになる文章、読みにくかった
んじゃないでしょうか?
正直、長編が書ける人がうらやましいです。
どうも長編は格子というか設計図が描けないので
書けないのです。短編で、頭の中でだいたい
組立てそのまま、書いちゃっています
>雨宿さん
感想ありがとうございます。
雨宿さんの感想で、非常に、わかりにくい、説明がなさすぎの
文章であることに、初めて気づいたです(←にぶくてすみません)
まっさらの状態から読んで、話の筋がわかるように
これから、肝に銘じて書いていきたいです。
二回目に読んだ時、ぼんやりと話の内容を掴みました。なるほどなぁ、と。
そして三回目となる今、深い深い衝撃に襲われました。まるで『オズの魔法使い』に出てくるブリキの木こりのような悲哀と皮肉を、そしてその先にあるもっと深い感情の海に。
海から戻ってきた私は人々に言うでしょう。
面白かった、と。
いえ、本当に読んだのは昨日だったんですが、余りに面白くてコメントするのを忘れてました。ごめんなさい。
元の、今の、と分けながらファックス音で繋がるお話。
やっぱり、ぼうぼうさんの擬人化は最高ですよ。
思わず、昔のファックス音を思い出してしまった私です。
『僕』の口笛、頑張れと思わずエールを送りたくなるお話でした。
2000文字の壁に嫌気がさして、長めのお話を書いていました。
次回からは、またお約束のサイズに戻そうと思っている(予定の)紫草でございます^^
飼い主同士のいきさつがあるだけに、口笛が変わっていくことの切なさもいっそう深く感じました。