Nicotto Town



鞄と職人気質と背広

あまり人に言いたくないことではあるけれど、ぼくの実家は寿司屋である。
亡くなった父親は子どものぼくに、自分が使う道具や、物を作って売ることへのこだわりをよく聞かせてくれた。
が、父の死後、なじみの客が言うには、ウデはたいしたものではなかったらしい。
なるほど、寿司屋と寿司職人とは違うものなんだと思ういっぽうで、自分が使う道具についてはこだわりを持つ人物にぼくも生長した。

先日、鞄を買うにあたって、自分の道具に対するこだわりをあらためて感じた。
他人がその姿を見たら、そんな細かいことを気にするな、と言う部分もあると思う。
けれど、気に入った物を永く使うには、気に入った部分を集めたものになるのではないか、との考えをぼくは捨てきれない。

じつは、Fugee の40万円のオーダーバッグを見た後、新宿で一般の革カバンをいくつか見て、ぼくはふと立ち止まった。
ぼくは今度購入するカバンを何年使うだろうか、と、10年以上使い続けているものが今どれくらいあるだろうか、についてである。

思い浮かんだのは、ギターと単車と、時計、万年筆、そして何着かのスーツである。

基本的に、ぼくは着るものについてはこだわりがない。
どんなものでも着こなすから、ではなくて、逆に何を着ても似合うものがないと思っているからだ。
専属のスタイリストでもいれば少しはこだわったかもしれない。
けれど、ぼくの体格はけっこういびつなので苦労が絶えないであろう。

身長と比較して腕が短かったり、ウエストに対して足が太いと気付いたのは10代のころである。
それでも、既製服を着れないわけではないので、どこかしらに目をつぶって着ていた。

母親はそういうぼくの体格に気付いていたのかもしれない。
就職活動用にスーツを買うという段になって、オーダーしなさいよ、と言った。

いまでこそ、オーダーするその価値の高さを理解できているけれど、その当時は、スーツってのはオーダーするものだと、ぼくは思っていたので素直に母親の言葉にしたがって採寸した。
イージーオーダーで、たしか3万円くらいではなかったかと思う。
スタイルとかパターンだとか、こちらは知識がないのでほとんどテーラーに任せたけど、父が使っていた懐中時計を入れるポケットだけはこちらから注文した。

以来、ぼくが常用するスーツはすべてイージメイドである。
何着かバーゲン以外で作ったものもあって、それぞれ15年くらいは着続けている。
今にして思えば、そのときどきで流行のスタイルにしなかったのもよかったのであろう。
初めて作った2着はさすがに苦しくなって処分はしたけれど、結婚という過ちを犯していないぼくは、いびつなカラダのまま体格があまり変わっていないのも関わっている。

さて今日、袖を通したものは、内ポケットに「90.12.05」とラベルがある。
スラックスの裾が小さく擦り切れているのもあって、そろそろ処分しなくてはいけないのかもしれない。
が、ぼくは修繕して着つづけたいと思っている。

せっかく、オーダーしたんだもの。

そのためには少しカラダを絞らないとならないんだけど、体重がなかなか落ちないのがこの数年の悩みである。

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