『紫翼のジーナ』７話
原案：はじめあき
作者：しゅーひ

机の上の小さなランプがゆらゆらと柔らかな影を落としていた。
クロストは一人寝室にある小さな机にそなえつけの椅子に座り、考え事をしていた。

偶然ではあったが、実はあの日、リンが家を抜け出し薬草を取りに行った日の一部始終をクロストは物陰から見ていた。
その時は自分の『封印』を解いておかなかったので、何もできない自分に苛立ちを覚えた。

偶然居合わせたジーナに感謝しないといけない。しかしリンがジーナの核羽を吸収するという事態にも困惑を覚える。
その時の驚きと失念を言葉で表すことはできない。
このままではリンが衰弱していくことは、自分の経験で良く知っていた。

だからこそ、核羽を探しにジーナが来るであろう事に賭けたのだ。いや、本当は来て欲しくはなかった。ジーナが来なければ、リンの中に核羽が無いという事になる。自分の見間違えであって欲しかった。

しかし、ジーナは核羽を捜しにやって来た。本来、自分の核羽の位置は感覚で判るはずだからだ。だが、ジーナの話を聞くと本人は全く判ってなかったようだった。なぜだろう？
また、いきなりジーナを敵視する輩が来ることまでは予想できなかったが、ジーナとリンの融合をしっかり確認できたことは収穫であったのだろう。
少なくとも、リンが衰弱死することはないからだ。

失意のどん底にいた時にある理由からリンを育ててきて、すでに１７年。
あえて娘ではなく薬草取りの弟子として接してきた。

だからといって愛情がないわけではない。自分の失意を救ってくれたのはリンの無邪気な笑顔であったのだ。
こんな事が無ければ、シアナ族の娘として平凡であるが平和な生涯を送れるはずだった。
この静かな女神の湖のほとりで。

クロストは唯一鍵の掛かる引き出しの鍵をそっと開けた。
引き出しを引くと小さな写真たてが一つ入っている。
写真たてを取り出し、そこに写る黒髪の女性を見つめるクロスト。

「リンが君の二の舞になるとはね…どう思う？マリィ」

当たり前であるが、写真の女性は笑顔をクロストに向けたままでクロストに話しかけてはくれない。

「とうとう封印を解いてしまったよ…２０年近く抑えていたのにね。マリィ、君の力を使うことを許してくれ。まだリンもジーナも若い…」

先ほどのジーナの話を聞く限り、ジーナは神官になる事に執着をもっている。
自分も翼人族…いや翼人族『だった』から良くわかる。神官になれる道が残っているのなら、その道筋がいばらであっても進みたいであろう。

リンが襲われた時に聞いた「ガロン様の命令」という言葉、ジーナの持っていたカードに記された『メニア族　ガロン　弟王従者』、そしてジーナからの話をもって話推測すると、あの赤い瞳のメニア族の魔導士がガロンという名なのであろう。

ジーナは、やっぱりそうか！絶対にブッ殺すといきまいていたが、はたして巧くいくかどうか。
少なくとも、ジーナはメニア族のガロンを探しに旅立つ事になる。そうなれば必然的にリンも同行しないといけない。

「お目付け役として私もついて行く事にしよう。他に気になる事もあるのでね。リンには悪いが旅立つ『理由』ができた」

とクロストは写真の中のマリィに話しかけた。そして静かに写真を元の場所に戻し、ゆっくりと鍵をかけた。
机の上のランプの油はまだ十分に残っていた。
旅立つ前に、メニア族の国について詳しく調べておく必要がある。
クロストは戸棚にある本を数冊取り出し、机の上に広げた。

その日、クロストの部屋の明かりが消えたのは夜も大分遅く、いや明け方に近い刻（とき）であった。