Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


『Not guilty but…』(15)

 協議後、いったん家に戻って着替え、改めて警察署に出向く。日が暮れてしまったので、《私》が普段着ているおとなしめのカットソーにカーディガンを羽織って。
「どちらのお嬢さんが来たかと思えば、今朝の」
 出てきた刑事がこちらを見て「化けたなぁ」と小さく呟いた。着替えたくらいで大げさな。
 刑事はフロアの奥にあるパーティションで区切られた応接コーナーへと自分たちを案内した。
「何かお話があるそうですが…思い出した事でも?」
 プラスチックの使い捨てカップに入ったコーヒーを差し出しながらそう訊ねてくる。
「ええ」
 バッグの中からURLをメモしたメモ用紙を出して差し出す。
「水没したケータイの『お気に入り』に入っていたサイトのURLです。そのいずれかに私の写真がアップされていると思うので、削除してもらいたい、と思いまして」
「ほぉ?……またずいぶんピンポイントで」
 都合のいいところだけ、と思ったのだろう。刑事が疑わしそうな顔でメモとこちらの顔を見比べる。
「実のところ、全部思い出したんですが……ずいぶんと辛い作業でした。それで、折り入ってご相談が」
「相談?『司法取引』がしたい、とか?」
「いいえ」
 その制度は日本では採用されてない、という事は調べた。
「……あの人を強姦で告訴できないか、と思いまして」
 刑事が目を剥く。
「……それは、どういった?」
「一服盛られてホテルに連れ込まれた上での行為なら、合意とは言えませんよね?でも、あの人亡くなってるし……亡くなった人を告訴する事は、可能でしょうか?」
「それが、思い出した内容ですか?」
「大筋では」
 ふむ、と刑事がうなった。
「詳しいお話をお聞かせ願えますか?上で」

 自分が通されたのは、取調室ではなくて『ご相談室』というプレートのかかった部屋だった。話す相手は中年の婦人警官が用意された。
「何やら複雑なご事情のある方、と伺いましたが。口にするのが辛い事があるなら言わなくても構いませんからね」
 彼女は椅子に落ち着いて名乗った後そう口にした。後半部分は単なる決まり文句かもしれないが。
「えーと……どこからお話したらいいでしょう?」
「まず最初に、あなたのお名前と住所を訊かせてね。そのあとはあなたの話したい所からで結構よ」
 一応は『事情聴取』の体を取っているらしい。そういえば視界に入らないところに書記役がいるし。
 言われたとおりに住所・氏名、ついでに年齢も言う。それから。
「……一瞬でも『イケメンだ』とか思ってしまった《あたし》がいけないんだと思います」
「そう、相手はイケメンだったのね。……それで?」
「ストッキングのモニターをしてくれないか、と喫茶店に誘われました。名刺も貰って」
「名刺をもらったのね?……その名刺は今どこに?」
「ええと……」
 貰った名刺。喫茶店で会社名と所在地を確認して。……それから?
「……ストッキングを穿き替えて戻ってきたら、なくなっていました」
「なくなっていた?下に落ちていた、とかじゃなくて?」
「ええ。落ちるような場所には置かなかったし。……なくなっていた事に、たった今、気付いたんですが」
「そう……それで、ストッキングを穿き替えたあとは?」
「喫茶店のテーブルで、アンケートに答えました。アイスティーを飲みながら」
「アンケート、というと、一問一答形式で?」
「いえ。A4の用紙にアンケート項目が印刷されていて、記入するように、と。ボールペンも用意されていました。取り敢えず一枚目は全部埋めてくれ、と言われたので、結構時間がかかったと思います」
「一枚目は、というと、二枚目以降もあったのね?」
「はい。全部で五枚、かな。一枚目は、普段どのようなところでストッキングを買うか、とか、いくらぐらいの値段が多いか、とか、そんな事を」
 一枚目を記入し終えて、店内が妙に暑く感じる事に気付いた事。
 相手に促されて店を出る事にしたが、同時に頭が鈍く痛み始めた事。
 店の外へ出たところで、相手に頭痛を訴えると、どこかで休もう、といったので、躊躇なく頷いてしまった事。
 連れ込まれた先で手渡されたペットボトルの封が切られていた事。
 しばらくして、自分の感覚が異常に敏感になっているのに気付いた事。
 相手にいたぶられて乱れる様を、ケータイの写真や動画に撮られた事。
 話しながらだんだん手のひらを固く握りこんでいるのに気付く。
「……その……行為の間中、ずっと携帯電話を?」
「手放しませんでした。三十枚以上は撮られていたと思います。もしかしたら百枚近いかも。何度もやめてほしい、消してください、と頼んだのですが……」
「聞き入れてはもらえなかった訳ね」
「……はい」

#日記広場:自作小説

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2010/12/15 02:48
私は幸い警察のお世話になったこと無いんですけど、(← あったら困るってば!w)
『ご相談室』のやり取りって、ホントにこんな感じなんですか?
実際にこういう経験無しで、調べただけで書いてるとしたらスゴイです~!
ホントにこういうものだって思えますもん。
だいぶ私、信じ込んでますよ、こういうやり取りするって。w
いろんな人の小説読んでると、もっと自分も勉強しなきゃイカンな~って、
いつも思いますよ~。
私もがんばらねば~! R( ̄へ ̄*)

しかし、《あたし》って、だいぶ困った性格ですね~。^^;
イケメンだからって、信じちゃダメじゃ~ん!
う~ん、問題児ちゃん。^^;
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2010/12/03 20:13
↓おっと。
修正しました。
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2010/12/03 20:10
タイトルの14が二つあるよ~
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2010/12/01 22:18
《私》と《あたし》かぁ~?
でも、やけに軽率な行動に出たんですね《私》は・・・・らしくも無い。



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