昔、彼女と横浜の酉の市に、行ったときのこと。
その当時お付き合いしてた彼女は、お酒が大好きで、
必ず最後には千鳥足になるという凄さだった。

出店めぐりをしていくうちに、彼女は当然のごとくできあがっていった。
ついに、来たかと覚悟した頃、
彼女は、突然、金魚すくいをしたいと云いだしたのだ。
「もう、無理だよ。」
「なんで！」
いっちょまえに、抗議をしている。
「だって、もうフラフラしてるじゃん。」
「どこが！」
と、云いながら、ふらついている。何、それコント？
仕方ないのでボクは、
「じゃ、一回だけね。」と、念をおす。
「けん君、大好き。」と、口をとがらせてちゅーしようとするので、
「わかった。わかった。」と、ボクは酔っ払いをかわすのだった。

当然、まともに金魚をすくえる訳もなく、、、
なぜなら、おたまを水にひたしたまんま
豪快に水中を駆けめぐらせるのである。
とっくに紙は破けてるのに、そのおたまで
金魚を追いまわすので、ボクは、たまらず彼女を
後ろからはがいじめにした。
「わかった。はーぃ。もーおわりー。」
「やだー、まだ、やるー。」
「さっき１回って、約束したでしょ。」
もはや、親子の会話である。
なんとか彼女を納得させ、帰ろうとしたとき、
お店の人が、「２匹さしあげますよ。」と、云う。
ボクは、もらっても飼えないので、断ろうとしたとき、
「わーぃ、やったー。」と、酔っ払いの歓声があがる。
それは、お前の手柄でもないし、
なに云ってるのと云う間もなしに、
お持ち帰りの金魚は、できあがっていた。

千鳥足の彼女は、それはそれは上機嫌で、
ボクのことを大好きだと帰り道、連発していた。
実に、安っぽいI love you　である。

そして、ふらふらの彼女と金魚を片手に、
なんとか帰りの電車に乗り、座席に座った。
上機嫌な彼女は、
「な、名前つけなきゃ。」と、云う。
「名前ね。うーん、何がいい？」
すると彼女は、
「きょ、今日は、ボ、ボジョレー・ヌーヴォー解禁日だから、、、」
ろれつも回らなくなっている。
「うん、ボジョレー・ヌーヴォーだね。」
「だから、ボー、と。」
「うん、ボー、と。」
「ビー！」と、彼女は、なぜか人さし指を立てて叫んだ。
「あ、ああた、ビーって、ボジョレのどこにビーが入ってんだよ！」
と、彼女の方へ振り返ると、
空いてる座席に指を立てたまま体ごと倒れ込み、
ＺＺＺ、、、ＺＺＺ、、、と、なんと寝ているではないか！

オレは、思わず
「うそーーーぉ。」と、天を仰ぐのであった。